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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第703話 激昂

「『まずはティファニー・マイスリーの罪について暴くことにしよう。我が親衛隊小隊長のケイリーに渡した書状が破かれた後、ティファニー妃が我のところに来た。その時の映像を記録している。(しのぶ)!』」

「あぁ、ソラ様に呼び捨てで命令される日がクるなんて……!もうそのお声だけでイってしまいそう……!」

「『()く再生せよ、変態』」


 追撃の言葉にびくんびくんと跳ねていたような気もするけど、ろくでもなさそうなので無視しておく。


『お紅茶をどうぞ』

『それで、私に何をして欲しいのでしょうか?』

『美味しいですね、これ』

『お気に召して何よりでございます!』

『あふ、ふへぇ……』

『あらあら、お紅茶にお酒が混じってしまっていたようですね♪申し訳ございません!』


 いいところで映像を止める。


「『まずここで出された紅茶。我はこれを飲み干したように装ったが、映像にある通り、一割程わざと飲み干さずに持ち帰り、成分を聖女院研究室に調べてもらった。神流!』」

「はっ!」


 神流ちゃんがワープ陣を敷くと、ワープ陣から髭の生えたメガネの男性が現れる。


「聖女院成分解析研究室長、ドネイトだ。こいつの中身を調べたところ、紅茶の中にはまず麻痺毒が含まれていた。濃度はラッシュボアが麻痺するほどで、つまり一般人に飲ませれば三日間手足が痙攣して動けなくなり、最悪の場合死ぬ量だった」


 眠っていない最前列にいた侯爵以上の関係者達の間でどよめきが起こる。

 無理もない。

 僕の書状を破り捨てた件を余興と言ったのは、それが『不敬』程度で済んだからだ。

 もちろんそれを理由に聖女が重い刑罰をすることも可能であるが、さすがに聖女も鬼ではない。


 だけどここに王国の関係者が毒を盛り、それが下手をすれば死に至るものだったという事実が舞い込んできた。

 これは明らかな反逆であると、誰もが気付いてしまった。


「『ほう、つまり、我が最悪死んでもいいと思っていたようだな』」

「そ、そんな……ことは……!」

「そして二つ目に含まれていたもの、こいつは飲んだ者の魔力量を徐々に減らす魔力ドレインの毒草も含まれていた。これは本来魔物の魔力を徐々に減らして魔法を使えなくする代物であり、医師の指示なく人に向けて使うことは禁じられているものだ」

「『聖女を殺すことは死罪に値する。これは聖女との約束ではない。過去に一度、我を殺そうとした輩が現れたが、その時は我々聖女は裁きを下さなかった。だが女神の怒りに触れ、シルヴィアが直接裁きを下した』」


 実際に僕に毒をかけたのがシェリーとセフィーで、怒り狂ったのが女神エリス様ではなくシルヴィアさんで、裁かれたのはシェリーとセフィーの両親。

 けれどそれを都合よく解釈して話すことが、ずる賢い姉の十八番だった。


「『つまり、聖女に手に掛けた時点で、我等聖女どうこうではない。女神の神罰によって裁きからは逃れられないのだ』」

「そ、そんな……」


 こんなこと言っているものの、実のところ今の僕はただ威圧感だけを出している法螺(ホラ)吹き野郎だ。


 ドネイトさんは一般人に飲ませれば最悪の場合死ぬかもしれないと言っていたが、僕は残念ながら一般人ではなく魔法防御がカンストしている聖女なので、舌がちょっぴりピリッとするだけだ。

 その上魔力ドレインの毒草程度の魔力減少量では、僕の魔力の自然回復のほうが上回るので、実質ダメージなんてないようなもの。

 だから、僕としては本当にただ辛くて不味い紅茶を飲まされただけ。

 いや、もはやあれは紅茶の味ではなかったけどね……。


「『映像の続きを流せ』」

『ですが私、こう見えて光属性魔法が使えますのよ?』

『ほう』

『では、テンプごにょごにょ……ヒール!』

『あ、治りました!ありがとうございます♪』

『い、いいですか?三日後、必ず王城にいらしてくださいませっ!』


 ここで映像魔法の再生は終わる。


「『問題はここだ。我はすぐにこの異変に気付いた。まずヒールの効果を得られなかったのはもちろん気付いた。それに光魔法が使える者や聖職者、冒険者、医療に従事している者なら誰でも知っているはずだが、ヒールの光は白色。他の属性でもピンク色に光るヒールなど、存在しない』」

「っ……!?」

「『全魔法の現象と効果を暗記している我を魔法で誑かそうなど、愚かな行為よ。そもそも光魔法に精通している聖女を光魔法で騙せると思ったのか?だが今更気付いたところで、もう遅い……。そしてピンクに円形に光る魔法は"テンプテーション"ただ一つだけ。これは闇属性の魅了魔法だ』」

「な、なんだって!?」

「魅了魔法だと!?」

「『まさか王家や公爵家とあろうものが、聖女が取り交わした国際法を知らないわけではあるまいな?』」


 翼を二回羽ばたかせてティファニー妃の側まで行くと、僕は手足を拘束されているティファニー妃の脱力して下を向いた顔を、僕がよく見えるように顎を上を向かせた。


「『人に向けて魅了魔法を放つことは、国際法で禁じられた重罪だ』」


 ごくりと息を飲む音がしきりに聞こえてくる。

 今の僕の声は、そんなに怖いのだろうか?

 でもそれもこれも全部、一緒に戦ってくれているハープちゃんのお陰だ。


 でもここから先のことは赦す気がない。


「『だが、そんな些細なことはどうでもいい。我に向けられた魅了魔法などどうせ効かぬし、我が裁かずともいずれ女神が我より徹底的に裁くことだろう』」


 この声で、更に恐怖に陥れるように深く、低い声を出したら、ここにいる人たちはもっと怖がってくれるだろうか?


「『問題なのは、魅了魔法は我だけに放ったものではなかった。我の隣にいた婚約者二人を、あろうことか巻き込もうとしていた……!』」

「「「っ……!?」」」


 怒りが魔力の圧となって眠っていた後ろの人々を吹き飛ばし、更には王城のありとあらゆるガラス窓を吹き飛ばした。


「『我の大切な婚約者に手を掛けた者は、たとえ誰であろうと赦さない……!!これが貴様らの、二つ目の罪だ!』」


 他人のことでしか怒れない僕の唯一無二の存在を汚された事実が、僕の激昂の理由だった。

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