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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第702話 演説

「だ、大聖女様!実はここ数ヶ月、ハイデン陛下が病に臥せっておりまして……」

「『黙れ、王妃セルマ!貴様に口を開くことは、我は一言も許可していない!』」

「ぐぅっ!?」


 飛んでいる僕は手をセルマ王妃に向けると、光の大きな手のようなものが現れてセルマ王妃を鷲掴みにする。


 今の僕は教皇龍(ハープストドラゴン)と一体化しているため、詠唱がなくとも手を叩いたり思い描くだけで魔法陣が勝手に出て来る。

 だが魔法を放った感触的にハープちゃんのステータスを加算しているみたいで、加減を間違えると人を殺しかねないので、そういう意味では少し怖い。


 それに一体化しているからか、口調がハープちゃんに引っ張られているようだ。

 ちょっと自分らしくないけれど、今の僕にとってはこれくらいの威厳が必要だったため、少し有り難かった。


「『見よ!これは我がゴミ箱から回収した聖印付きの書状の残骸だ。()()()()()()()()()()()()()()()の貴様では知りもしなかったであろうが、これは追跡のため映像魔法の記録が付けられた特別な紙だ。この意味が分かるな?』」

「ま、まさか……!?」


 取られた映像魔法を復元するために魔力を注げば、たとえ紙が破かれていようとも燃やされていようとも、映像がすぐに再生できる代物だ。


『――大聖女の謁見ですって!?こんな大事な時に……!こんなものッ!?』


 消えない聖印をなんのその、ビリビリと破き捨てるセルマ王妃の姿と困惑するメイドの姿が巨大スクリーンに写し出されていた。


『お、王妃殿下!?』

『それを燃やして捨てなさい!早く!』

『お母様、でももし聖女様が来てしまったら、どうするつもり?』

『どうしてそれを私が考えなければならないのよ!アリシア、お前のためにやっていることを忘れないで!あなたには王になってもらわないと困るのよ!女王として相応しい存在になりたければ、きちんと頭を使って対処しなさい!――』


 一部始終を見た宰相と王妃、王女が真っ青な顔をしている。


「『この証言のもと、只今を以て"セイクラッド国"は聖女に、そして女神エリスに盾突いたこととする!』」

「セ、セイクラッドは、もう終わりだ……」

「『今の我は教皇龍と共にあり、力も増している。我の最上級魔法一つで民も……貴族も、国も、建造物も、全て消し飛ばし()(さら)な国にすることなど容易いことだ』」

「ひ、ひぃぃぃぃっ……!?」

「『だがそれでは我は優しくしてくれたこの国の一部の民の皆をも巻き込んでしまう。我はそれが本望ではない。だから何も関係のない民を守るために、まずは貴族と民を切り離す』」


 演説は続く。

 民の皆さんの生き血を啜るのは一部の悪い貴族だけだ。

 今からするのは、それを暴くだけの作業。


「『これよりここにいる全ての人間を、神聖者欺罔(ぎもう)の罪により、更なる余罪の嫌疑が解けるまでこの国の全ての王侯貴族を拘束する!王の威光の拘束(マジェスティバインド)!』」


 セルマ王妃を拘束するついでだが、光が輪となって全員に両手首と両足がくっつけられて手錠のようなものがくっつけられる。


「きゃあああっ!?」

「ぐわああぁっ!?」

「『罪人セルマ・セイクラッド!貴様は王妃でありながら聖女来訪の書状を破り捨て聖女及び女神に宣戦布告をした。余罪はまだあるが、更なる虚偽を重ねようとする前に、その口を全て塞げ、聖獣ドリアード!』」

「ひ、ひぃっ……!?」


 神獣ドリアードが手を合わせて祈りを捧げると、王宮の赤いカーペットを突き破って地面から木がにょきにょきと生えてきて、そのまま太い木の幹がセルマ王妃の口に突っ込んで塞いでしまう。


「むぐっ、むぐぐ……」


 実はリタさんのように自害することを対策するために舌を噛ませずドリアードの木を突っ込んでいる意図もある。

 その上ドリアードの木には栄養のある水が幹から滴るようになっているので、大人の女性が同人誌のように手足を縛られ口に木の幹を突っ込まれているこの如何わしい以外に表現のしようのないこの状態でも、1ヶ月くらいは健康に過ごせるようになっていたりする。


「『西国セイクラッドが我に与えた不敬は三つある。これはその一つだが、これは余興に過ぎない』」


 ついでに衛兵を拘束したところ、エルーちゃんがエドナさんを回収したのを見て、ひとまずの安堵を得る。


「『さて、王女アリシア、折角成人して責任ある大人になったというのに、まさか他人の言葉を借りなければこの状況を説明することすらできないのか?』」

「……っ」

「『それではこの()()記念パーティーは、一体何のためのパーティーだったのだろうな?』」


 後ろにいる貴族、そして実の母親である王妃。

 彼女の味方であった人たちを、一人、また一人と潰して、最後には味方は一人もいない、そんな状況を作っていく。

 それが『できる』だけで間違いなく、僕は()()()の血を引いている。

 これはもはや呪いだ。


 やがて恐怖より沈黙の方が怖くなったアリシア王女は、叫ぶように言葉を振り絞った。


「私はッ!母に命令されてやらされたのですッ!!父は病に臥せ、それがお兄様の第一妃であるエドナ妃の仕業だと母は言うのです!ですからこの成人の日に、このエドナ妃を陛下暗殺未遂の疑いで処刑しろと!そう申したのです……!」

「もががが!もぐぐ!」


 自分の母親が何も喋れないのをいいことに、自分に都合のいい話を並べ立てるアリシア王女は、誰が見ても滑稽だった。

 だが今までの噂で捕まっていたエドナ妃のこともあり、ある程度の信憑性と迫真の演技で、一部の貴族達からの信頼はある程度取り戻したようだ。


「それに、ソラ様のご予定を二日後に伸ばさせた張本人は、ティファニー妃ですからッ!」


 確かに僕のもとに来たのは、ティファニー第四妃だった。

 だがこれでアリシア王女の言葉には責任が伴うことになった。


「『責任を押し付けたな?アリシア』」

「っ……!?」


 王の威光とばかりに、七色に光輝く。

 それは僕の怒りではなく、言葉の節からとある嘘を見抜いたハープちゃんの怒りだった。


「『よかろう。貴様の余興に乗じてやる。ティファニー・マイスリーに罪を擦り付ければ貴様の罪が軽くなると思っている能天気には、身の程を教えてやろう』」

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