第696話 幽閉
「返事がない?」
「はい。いつもでしたら翌日に日程の打診が来るのですが、今回はそれもなく……」
西の国に来てから海や買い物に行く前に、まず王家に合う日取りを伝えるための書状を出していた。
「あのセイクラッド王家が断るとは考えづらいですね。どこかで伝え漏れているか……」
「揉み消した、か」
「いや、伝え漏れているなんてことはないだろう。聖印が入った書状だぞ?国の一大事、伝え漏れがあった事実だけで重罪だ」
となると、「もみ消した」しかないわけだけど。
「序列一位の大聖女から直々の書状をもみ消したなど、たとえ聖女様が極刑を望まれなくとも国が極刑を言い渡すレベルだろう」
「どう考えても国王の仕業ではなさそうですね。あまりにも杜撰すぎます」
僕たち聖女の聖印は、あまり知られていないけれど聖印の居場所が分かるようになっている。
なので今その書状がどこにあるかは座標を追えば自然と見つかるはずだ。
それを知らないとなれば、聖女からの書状を受け取ったことがない人となる。
「ケイリーさん、渡した相手は把握していますか?」
「ああ。顔を見れば分かる」
「一応後で聖印の場所を調べてみましょう」
「あの、よろしいでしょうか?」
宿屋の女性が声をかけてきた。
「ソラ様にご面会を希望の方が外でお待ちとのことなのですが……」
既にきな臭い中で、本当にタイミング悪くきな臭さが増してきてしまった。
「聖なる御歴々に御挨拶申し上げます。私、アール殿下の第四妃、ティファニーと申します。この度はご婚約おめでとうございます」
第四妃って、アール王子どんだけ多妻なんだよ……。
二年前までエドナさん一筋だったのに、王族というのはみんなそんなもんなのかな……?
まぁ、でも婚約者二人いる僕には言われたくないか。
それより、このタイミングで迎えに来るのではなく挨拶しに来るというのは、どう考えてもおかしい。
そしてそれが当の本人ではなく、第四妃であるということの異常さ。
アール王子が一人で来るか、妃と一緒に来るのが普通だろう。
それは僕を王城に招き入れたくないか、僕を利用する算段があるか、もしくはアール王太子が今王宮で相当窮地に立たされているかだ。
「初めまして、ティファニー妃。アール王子には書状を渡したはずですが……」
「話せば長くなりますが、殿下は今身動きが取れない状況でございます」
「では、王や王妃がこちらに来るのでは?」
「王は病に伏せっておいでなのです」
「なんですって……!?」
セイクラッド王が、病気……!?
去年はサクラさんが行幸に行っていたはずで、そんな報告は受けていない。
つまり、この一年の間で何かが起きた……。
「セイクラッド王は無事なのですか!?」
「はい。ですがエドナ第一妃が陛下に毒を入れたとして、幽閉されております」
「エドナさんが!?」
そんなこと、あの人が絶対にするはずがない。
「ソラ様、私共にお力添えいただけませんでしょうか?」




