第693話 防音
「ジージジジジ」
「んぅ……もうあさ……」
知らない天井……。
そういえば、西の国に来ていたんだっけ。
蝉の鳴く音で目覚めてしまい、こすった目を開けると、朝日の逆光に身長差が対比する二人の女性の影が重なっていた。
「おはよう、エルー君。今日もとても可愛いよ」
「涼花様こそ、凛々しくて素敵です」
「んっ」
「んちゅ」
朝から裸でキスをし合う二人が女神や天使のように神秘的に見えてしまう。
「ずるいよぉ……ぼくもぉ……」
その光景を眺めて、唇に右手を当て物欲しそうにしていると、天使と女神はこちらに視線を向けてきた。
「ふふ、甘えんぼさんだ」
涼花さんが真っ赤な顔で僕に深く口づけをすると同時に、エルーちゃんは僕の右耳に口づけをして、それが終わると今度は涼花さんが反対の耳を舐めて、エルーちゃんが口づけをしてくる。
「んちゅっ、いひゃぁっ!んちゅぅ……んんんっ!」
「おはようございます、ソラ様。本日は海日和ですね!」
「そちらのソラ様も、おはよう」
「も、もおぉぉっ……!」
朝から元気なのは、絶対に生理現象だけじゃない。
「お鎮めになられますか?」
流石にこれから海に行くって前にマラソンを走るのは、ちょっと……。
「ですがその……お耳のせいで、一向に治まりそうにないですね……」
「じゃあ、その……一回だけだからね……?」
「「おねだり上手ですね」」
両耳責めという僕の弱いところを全部させられて、僕は結局フルマラソンより疲れることになるのだった。
「ウェミダー!」
「海、初めて見ました……!」
「なんか来るだけで疲れた気がするんだけど……」
「昨夜はお楽しみでしたからね」
「えっ、なんで知って……!?」
「今日の朝もですわ!お義母様のお部屋、丸聞こえでしたわよ」
「し、しまった……!昨日から防音魔法使ってない……!?」
聖女院では防音設備がしっかりしているから、全く気にしていなかった。
宿泊客に多大な迷惑をかけてしまっていたらしい。
女将さんが僕たちを見てにっこりしていたのは、そういうことだったのか……。
恥ずかしくて死にそう。
「ご安心ください、ソラ様。女将さんには、うるさくしてすみませんと謝っておりますよ」
「二人とも、どうして言ってくれなかったんですか!?」
「その……聞かれている方が、燃えるというか……」
しまった、忘れてた。
エルーちゃんは聞かれて喜ぶタイプだった。
「ソラ様は皆のものだからね」
「元風紀委員長が風紀乱していいんですか……?」
「昔のことさ」
むしろ今は親衛隊長なのだから尚更だと思うんだけど?
「さ、起きてしまったことを悔やんでいても仕方ありません!」
「まずは水着に着替えましょう」




