第692話 相愛
宿屋に戻って夕食後、戦利品をまとめる僕たち。
もちろん僕は婚約者二人と同室だ。
「そうそうこれこれ!くま九郎に合いそうなリボンと服買ったんですよね」
「ああ確か、ソラ様が黒、私が青だったかな」
「わっ!可愛い~!」
「一緒に選んで良かった。これでおそろいだね」
「…………」
「どうしたの?エルーちゃん?」
「……いえ。お二人は、ぬいぐるみ趣味がご一緒で、少し羨ましいなと思っただけです」
エルーちゃんが拗ねてるのを見るのは珍しくて、思わず可愛いと思ってしまった。
エルーちゃんを蔑ろにしているわけではないと頬に口づけをすると、エルーちゃんは僕の持っていたくま九郎を奪って僕の顔にぼふっと押し付けた。
やってることは可愛い過ぎてそのまま抱き締めたくなるんだけど、如何せんステータスが高いから押し付ける力がなかなか、っ……ょ……ぃ……!
「ぷはぁっ!そういうエルーちゃんは、何か趣味はないの?」
「趣味、趣味ですか……」
「じゃあ、好きなことは?」
「お掃除とか、魔法とか、お茶淹れとか……あ、ソラ様のお世話は好きです!」
「それは全部お仕事じゃ……。まぁでもエルーちゃんが嫌々ながらやっているんじゃなくて良かったよ」
「ソラ様……」
「趣味って強要するものではないと思うけどさ、もし本当に何もないなら、一緒にぬいぐるみ趣味に興じてみない?」
「一緒に……ですか?」
黄色のリボンとお洋服とくま九郎をアイテムボックスから取り出す。
「じゃーん!はいこれ、エルーちゃんの分です!」
「ええっ!?」
「実は二人でぬいぐるみ服専門店にいた時に話していたのさ。これはソラ様と私の二人の趣味だが、それでエルー君が寂しがるかもしれないから、もしそうだったらエルー君の分も買っておこうって」
「涼花さんが提案したんだよ。二人で一緒にエルーちゃんに似合いそうなの一緒に選んだの。どう?」
「お二人からのプレゼント……!ですが、涼花様にそこまでしていただく理由が、私には……」
「何を言っているんだ。私はソラ様を一番に愛してはいるが、エルー君もまた愛してるよ。私の可愛いエルー君……」
「涼花様……!私もお慕いしています……んっ」
「ちゅ」
婚約者二人がキスしてる……。
最初は一回。
その後、ついばむように何回も。
そして二人のぷるんとした唇が表面張力のようにピタリとくっつくと、今度は舌を絡め合わせる。
自分でしていると分からないけれど、第三者視点から見るとこんなに扇情的な光景になるのか。
もうパンツがパンパンになっているのはおいといて、この光景に目が離せない。
婚約者が二人なんて普通は婚約者同士仲が悪くなっても不思議でないのに、こうしてキスできるくらいには仲が良いことに僕は安堵している。
けれど同時に、二人が愛を確かめている間、蔑ろにされている僕の情けなさが安堵の気持ちと混ざり合って、止めさせたいけれど止めさせたくないという変な感情となって僕の中に溢れてくる。
ついにエルーちゃん達がお互いの胸を触り始めたとき、僕の溜まっていた感情が漏れてしまう。
「ふっ……うぅぅっ……」
「あぁ……情けないお声……!素敵です」
「君はなんて可愛いんだ……」
「えるーちゃぁん……りょうかさぁん……!」
「ふ、ふふ……ごめんなさい。私達の一番はソラ様ですからね」
「ああ、だから相思相愛の三人で、愛を確かめ合おう」
「それに折角ソラ様に選んでいただいた下着を、お見せしないといけませんからね!」
世界一情けない顔と声を晒して、それでもなお僕を愛してくれるこの人達を、大事にしようと僕は誓った。




