第691話 下着
婚約者二人の『お願い』は断れず……というか正確には無理やり更衣室に連れていかれ、服を脱がされた。
追い剥ぎだよ、こんなの……。
「うぅうぅぅ~~!ぐすっ、酷いよぉ……みんなしてぇっ……」
「「「か、かわいい~~!」」」
流石にビキニなんて下に履いたら色々とアウトなので、下はパレオのものにしてもらった。
本来は男だから胸は見えていても問題ないけれど、エルーちゃんの強い意思で胸も見せないようにと、胸下までのタンクトップのようなものにした。
どちらも花柄のかわいいやつ……。
「お義母様、素敵ですわ!」
「天使」
「私なんかより、ずっと可愛い……」
「セフィーの方が可愛いでしょ……」
「男にしては」可愛い方ってだけで、流石に女性陣のランキングに食い込む程ではないでしょ。
「お義母様はもっと御自身を見つめるべきです!ほら、姿見を見てください!」
見ろと言われても、いつも通り女装した僕なんだよな……。
今は女性ものの水着にまで手を染めてしまった、哀れな男というほかない。
「自己評価が低いのがお義母様の悪いところですね……」
「事故評価」
「そんなにひどいかな……?」
その後、自由時間として僕はぬいぐるみに着せる服などを選んだ後。
「お義母様、こちらのピンクはいかがでしょう?可愛くないですか?」
「お、お義母様……こういうレースブラは私に合いますか?」
「ソラ様。これ、どう?にゃんこマーク」
「ソラお姉様、フリルは似合ってまして?」
「み、みんなどうして私にばかりに意見求めてくるの……?」
それも、下着の。
「それは、殿方のご意見もお聞きしたいですし……?」
「わ、私はソラ様なら安心、できます……」
「ロ、ロッテちゃんまで……」
都合よく男扱いして、都合の悪いところだけ女扱いしないでくれるかな……?
姉はいたけど、別にそういうのに耐性があるわけじゃないんだけど……。
婚約者ならまだしも、妹や娘の下着を一緒に選ぶ男がどこにいるっていうんだ……。
「皆様、悪気があるわけではないのだと思いますよ」
「どの道、聖女様の御前なら全員が据え膳だからね」
「据え膳て……」
拒否権がないとなると、そう呼ぶしかないのかもだけどさ。
僕からは選び放題だから、今更女性側から裸や下着姿なんて気にしたところで無駄ってこと……?
まぁ神様はいつも民を見ているから、裸とか気にしても仕方ないっていうのと理屈は同じなのかもしれないけど、でも僕自身はただの人間の男なわけで、ちょっと知り合いに神様がいるだけ。
据え膳ってそうすぐに割り切れるのは、流石に逞しすぎない……?
「涼花さんとエルーちゃんはさ、こういうのに対して嫉妬とかないわけ……?」
「む……まぁ私はエルー君の次だったからね。それに私としては側室でも良かったくらいだし、これ以上を望むのは、ね」
「嫉妬、して欲しかったですか?」
そんな求めて欲しそうな顔されても……。
そもそも嫉妬って『して欲しい』→『OK!』ってなるような許諾性のものではないと思うんだけど。
「いや、涼花さんを婚約者にした時点で私にそんなこと言う権利がないのは分かっているんだけどさ……」
前世的には既に僕はただのスケコマシなんだから、僕の方から「嫉妬して欲しい」だなんて大層贅沢な話だ。
「少なくとも私にはそういう罪悪感があるよ。『二人の婚約者がいるのに』って……」
「ソラ様……!でしたら、きちんと!」
「嫉妬してみようか!」
いや、だからそんな意気込んですることじゃないってば。
「すまないね、レディ達。しばらく婚約者をお借りするよ」
「さ、ソラ様!私たち婚約者の下着とナイトドレスは一緒に選びましょうね!」
「ちょぉっっ!?状況を悪化させないでよっ!?」
「それはほら、毎晩見て貰うのですから!ソラ様のお好みをお聞きしないと……♥️」
「お姉様、取られてしまいましたわ……」
「これが、寝取られ……」
「ラブ、ラブ」
結局何度目かの連行で試着室に連れられて、僕の目の前で脱いでは新しいのの感想を聞かれるという婚約者二人の下着博覧会が開かれていた。
僕は何も口にしていないのに、二人は下半身の反応度合いを見ることで僕の心がバレてしまっており、密室で二人の婚約者の裸や下着姿という状況に、後半はもう鎮めるのを諦めてしまった。
「ふむ、ソラ様はレースが好きなんだね」
「紐もお好きなのですね。なるほど、ほどくのも簡単で、いつでもいただけると……」
「ちょっ、二人とも!?外に聞こえるように暴露しないでっ!?」
ちなみに僕用の女性用ナイトドレスまで試着して買わされたのは、ここだけの内緒だ。




