閑話185 お手紙
【リリエラ・マクラレン視点】
夏場の執務室は大忙し。
「ルーク、増設の見積もりを纏めましたわ」
「ありがとう、リリエラ。……問題ありませんね。クリスさん、よろしくお願いします」
「承知いたしました」
「しかし、これほど立て続けに聖女様がお越しになるなんて……。ソラ様がいらしてからというもの、何かが起こる予感がいたしますね」
「嫌な予感でないことを祈りたいと思いますが……」
「あら、ルーク?聖女様がいらっしゃるのに、悪い予感だなんて、酷いですわ!」
お互いに名前で呼び捨てになったり、軽口を叩けるような仲になったのは大きな進歩。
お父様には「結婚するまでキスはダメだ」なんて言われてしまいましたが、それを言われた時にはもう遅かった。
「誤解です。少なくとも、サツキ様がいらっしゃることに対しては悪いことはありませんよ。詳しくはシルヴィア様にお伺いしたことなので話せませんが、世界の改革に必要な技術を広めるためにサツキ様はいらっしゃるそうです」
「そ、そうなのですね……」
「リリエラ……?」
私がいつもより素っ気なくすると、ルークは心配そうに私を見つめてきた。
「今までもそうでしたが、ルークは顔がと・て・も!良いのですから。新しい聖女様がもしルークを好いてしまったら、私はどうすればよろしいのですか……?」
「今からその心配をするのですか……?ですがサツキ様は聖女様ですから、きっと大丈夫ですよ。その時は、二人で一緒に謝ってお願いしましょう?」
「ル、ルーク……」
「まったく、人が目を離した隙にいちゃこらするんですから」
「ク、クリス様……!?」
この人はいつの間にか背後にやって来るので、危険人物だ。
私のルークは、誰にも渡さない!
「別にもう見慣れた光景ですので、今更気にしませんよ。それよりこれ、リリエラ宛だそうですよ」
「誰でしょう……って、お父様からですわ!」
「リリエラ、ここのところご自宅に帰っていないでしょう?同じ聖国にいらっしゃるのですから、たまには顔をみせてあげては?」
「そんなこと言って、ルークだって全く帰省していないではありませんか。義妹の方が帰っている数が多いのではなくて?」
「私はもう家を出ていますから良いのです。それより、手紙ではなんと?」
「…………」
「リリエラ?」
「まあ!」
手紙に書かれた内容を見て、思わずガッツポーズしてしまいたい気持ちを淑女の心で押さえつつも、その行き場のない感情をルークを抱き締めることで発散した。
「やりましたわ、ルーク!」
「どうしたんだ?」
「弟が無事に生まれましたのよ!」
私やっと、お姉さんになるんですのね!!




