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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第687話 健康

「んっ、んんん……」

「おはよう、ソラ様」

「ひゃあっ……」


 耳の後ろから低い声が聞こえて、いろんなところが起きてしまう。


「昨日三人であんなにしたのに、元気だね」

「涼花さんのせいですよ、もぅ……」

「ならその責任は取らないとな」


 後ろから抱きつく涼花さんの柔らかい胸と引き締まった腕が僕をその気にさせてくる。


「おはようございます、()()()()()()()

「ちょっ、エルーちゃん?どこに挨拶してるのかな……?」


 いつ起きてたの!?

 ちょっと、撫でないで!


「だめだめだめだめっ!朝からしたら身体持たないから!」


 男はフルマラソン走るくらい疲れるんだよ!


「あ、朝から身体持たなくなるくらいするおつもりですか……!?」

「いや、そうじゃないってば!一回したらマラソン走りきるくらいの疲労があるから、朝したら1日辛くなるんだって……」

「そ、そうなのか……。すまない、そんなに負担があるとは思っていなかった」

「それなのに私ってば、昨日は何度も何度も……」

「まぁ、それ以上に気持ちいいし、愛を確かめられる……って、そんなことは置いといて!」


 僕の婚約者達は、すぐ僕を甘やかすんだからっ!


「今日、親衛隊もお休みでしょう?だから御挨拶しておこうと思って」

「御挨拶?」

「ブルームさんにね」

「ほら、お着替えいたしますよ!」

「エルーちゃん、いつの間に用意して……」


 それに自分の着替えは既に終わってるし。


「ふふ、お世話する方が一人増えましたね」

「いや、私は一人ででき……」


 「美人のお世話、やりがいがあります!」なんて元気に言うものだから、涼花さんも諦めてされるがままになっていた。




「むぅ、まさか昨日の今日であんなに手紙が来るなんて……」

「大聖女様の妾になれるだけで幸せが保証されていますからね」


 エルーちゃんが取り決めた婚約の条件は、僕がエルーちゃんだけを妻としないという約束。

 涼花さんみたいな第二夫人候補も、側室も、僕が望むのならいくらでも取っていいのだという。

 感情が魔力暴走に繋がる僕たち聖女にとって、幸せであることが一番の暴走への回避方法だ。

 その上僕はどうやらこの世界に来てから心が他者より脆いらしく、それを埋めるためにも必要なんだそうだ。


 ともあれそんなこんなで結納式の場でエルーちゃんが大々的に夫人や側室の募集をしてしまった結果、貴族や平民問わず各所から大量の求婚のお手紙や花束をいただいているらしく、検閲の方々の仕事を増やしてしまった。

 流石に僕が一度も会っていない相手にそういう気は起こせないので、しばらくはそれを口実に断って貰っている。


「おや?いらっしゃいませ、ソラ様、エルーシア様」

「こんにちは、ブルームさん」

「ただいま、父上」

「おかえり、涼花」

「開店準備中でしたか。お手伝いします」

「いえ、おかまいなく」

「父上、腰を痛めるから手で運ぶのはやめなさいと、母上からも言われていただろう?」

「魔道具を使わないのは、私のエゴだよ」

「まったく、花のことになると、てんで聞かないのだから……」

「っ……」

「父上!ほら、言わんこっちゃない……」


 鉢植えを動かそうとして腰に来たのか、落としてしまうブルームさん。


「リカバー、キュア」

「ソラ様……」


 ブルームさんのお花屋さんは有名な店舗でお客もそこそこ多い。

 お金ならあるし、魔道具で重いものを運ぶ手もあるのに、そうしないのは彼がお花と対等にありたいと願っているからだろう。


「とても素敵なことですけど、ブルームさんには健康で長生きしていただかないと、困りますよ」

「えっ……?」

「だって、ブルームさんにはいつか孫の姿をお見せしないといけませんからね」

「……!」


 気持ちが溢れて涙ぐむ姿は、やはり親子かな。


「涼花を、もらっていただけるので……?」

「逆ですって。こんな私ですが、涼花さんを、私にいただけませんか?」

「ああ葵……私の夢が叶いました……」


 ブルームさんはその後開店するまでしばらく泣いていた。

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