第686話 甘言
「ソラ様!」
「涼花さん……」
あの容姿端麗、完全無欠の紺碧の刀姫が、息を整えずに僕の部屋に来る。
「はぁっ、はぁっ……」
「ふふ、お邪魔虫は退散しますね」
「あ、エルーちゃ……」
「ソラ様、『涼花様を泣かせたときは、ただじゃおきませんからね』」
エルーちゃんが爆弾を落として部屋を去る。
……何でエルーちゃんも葵さんのその台詞知ってんのさ?
「さては、二人で示し合わせていましたね……?」
「あまりそう婚約者を疑うものではないよ」
「むっ……!些細なことでも共有するのが家族の幸せの秘訣なんですよっ!」
「相変わらず可愛い顔をするな。思わず食べてしまいたくなる」
「ひゃぁっ」
「これでも、我慢するの結構大変だったんだよ」
耳もとでそんなえっちなことを言われてしまっては、力が入らなくなっちゃうってば。
「ちょっ、ひぁぁっ、ストップです!せ、せめて私から言いたかったのにぃ……!」
「譲らないよ。君は私のお姫様だからね」
エルーちゃんとは女の子同士扱いだし、涼花さんとは涼花さんが王子様で僕が姫だし、僕はいつになったらまともに男扱いされるのだろうか……。
「……分かりました」
跪いて手を取り口づけをする。
僕の顔は熱くなってはいないだろうか?
「生涯をかけてあなた様に尽くすと女神エリス様に誓います。私は、あなただけをお慕いしております」
「涼花さんは一方的だと思っているかもしれませんが、記憶を共有して私を助けてくれてから、それは一方通行ではなくなっていたんですよ」
「!?」
目を見開いて僕を見つめ、右目から垂れた一粒の涙がつぅっと頬を伝って垂れていく。
「私の、王子様になってください。涼花さん」
まるで宝石が泣いているかのように綺麗で、僕は両手でその頬を包んで唇にキスをした。
「クリスタルのブローチです」
「私には勿体ないな……」
「勿体ないわけないじゃないですか!無属性強化の効果があるんですよっ!」
「ぷっ、はははっ!ソラ様は、そういう人だものな」
「いや、それを抜きにしても本当に似合ってると思ってますよ」
胸に付いたブローチにキスをして聖印を付けると、顔を赤くする。
「ふふ、涼花さんって案外可愛い人ですよね」
「な、何を……」
「記憶で知ってますから。『ソラちゃんぬいぐるみ』に話しかけてるみたいに、二人のときは『ソラちゃん』って言ってくれて良いんですよ?」
「なぁっ……!?」
この可愛い涼花さんも僕だけが知っていれば良いのだろう。
二時間後、エルーちゃんが戻ってくるとなぜか怒っていた。
「ソラ様?」
「エ、エルーちゃん?」
「せっかく両思いになられましたのに、どうして閨をなさらないのですか!」
「いや、エルー君!何を言ってるんだ!」
「私と違ってお子をお作りになられても問題ないのですから、ここは私のために我慢してくださっているソラ様を癒して差し上げるようにと申しましたでしょう!?」
「いや、そうは言うが、心の準備と言うものが……」
「エルーちゃん、流石に初めての相手はエルーちゃん以外に譲る気はないよ」
「む、むむむぅ……!」
ご機嫌斜めなエルーちゃんを二人で撫でる。
「じゃあ……本番は無しとして、三人でするかい?」
「む、むむむぅ……」
えっち魔人は、王子様の甘言に屈してしまった!




