第68話 接吻
多目的ホールの舞台袖。
本番を前にし、僕は徐々にトラウマを思い出し震えていた。
その震えを押さえるように、リリエラさんが手を取った。
「私達は今日のために頑張ってきました。ですから、きっと大丈夫です。共に乗り越えましょう!」
あのときとは違う。
今の僕にはみんながいる。
自然と震えは止まっていた。
「ありがとうございます……。行きましょう」
舞台にはサクラさんや王妃、たくさんの人達が見ていた。
「くっ……」
「奥方様っ!?」
物語は終盤、ソラが魔王の毒にやられるシーンだ。
『――現世の……万物を覆滅せし神よっ……今ひと度、吾に力を……貸し与えたまえ――』
支えてくれる涼花様に、僕は魔法陣を展開する。
『――ホーリー・デリート――』
それと共に上級のディバインレーザーをソーニャさんと重なってまるで食らっているみたいに見えるように壁に向けて放つ。
多目的ホールを極限まで強化しておいたからできる芸当だ。
ふらっと倒れる僕に駆けつけるソフィア王女。
「ソラ様!!」
「お祖母ちゃん……仇は、取ったからね……」
僕は脱力してソフィア王女に支えられる。
「そんな……ソラ様……!!」
突如時間が止まったようにみんなの動きが止まり、僕とソフィア王女にカッと灰色の照明があたる。
すると天からリリエラさんが舞い降りて来る。
「ああ、私の愛し子ソラよ……」
エリス様は基本的には聖女くらいしか見ることも声を聞くこともないので、大分美化されているようだ……。
そう考えると、僕とエルーちゃんは相当貴重な体験をしたんだな……。
無言で空中から近付くリリエラさん。
目をつむっているが、照明が遮られる感覚を覚える。
いよいよキスシーンかと思い、右目の半目を少しだけ開く。
すると、正面にリリエラさんの顔がぼやけて見えた。
あれ……?
反らすよね……?
心配になってきた僕はそのまま半目のまま近付くリリエラさんを見ていたが、僕の顔の正面に来ると目が合った。
えっ、ちょっと!?
ほんとにするの!?
リリエラさんは目をつむりそのまま僕の正面から覆い被さる。
ちょっ、そんなの駄目だよっ!?
リリエラさんには、ルークさんという大事な人がいるんだからっ!!
「っ……」
でも、演技中だから声が出せない……。
僕はなんとか抵抗すべく自分の口を覆うようにミニ障壁を張った。
そのすぐあとに、唇に重さを感じた。
押されたところから、じわりと温もりを感じた。
障壁に気付いたリリエラさんは、他の誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた。




