第684話 犬猫
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
……カリカリモフモフ、えっち。
もはや見るのも狂気のように感じるこの文章は、成人後の梓お姉ちゃんの一週間のスケジュールであった。
当時梓お姉ちゃんは専属メイドの代わりに専属執事としていかにもお姉ちゃんが好きそうな犬獣人の年下の男の子を囲って、モフモフしてはえっちなことをしていたという。
それだけ聞くと『妖怪カリモフショタコン』でしかないのだけれど、どうやら執事の記録を読んでいくと、その年下好きの起源は僕のせいらしいのだ。
梓お姉ちゃんは当時僕が家でいじめられていたことに気付いていたのだという。
それは僕を後ろから抱き締めたときにうっかり首筋を見てしまったらしい。
首筋の傷を見たお姉ちゃんはお祖母ちゃんに相談したところ、僕がいじめられていることを知ったという。
梓お姉ちゃんとお祖母ちゃんはその原因が僕の姉、星空にあることまでは掴んでいたらしい。
でも、お祖母ちゃんが消えてから、梓お姉ちゃんにはストーカーに付け狙われるようになったそうだ。
そして逃げるようにこちらの世界に来たお姉ちゃんは年上の男がトラウマになるほどの悲しみに暮れていたが、年下の獣人種だった執事のケイン君がその心を癒してくれたそうだ。
年上の男性が嫌いになったのはストーカーのせいだったらしいけど、年下の男性が好きになったきっかけは僕だったと言っており、僕をあの家族から救えなかったことを後悔して、完全に拗らせていたらしい。
その後七人のモフモフ獣人の年下と逆ハーレムのような生活を送り十人ものハーフ獣人の子供を産んで幸せになったものの、僕を救えなかったことには最期まで後悔していたと書いてあった。
「うちはほぼ勘当状態だったはずなのに、お祖母ちゃんも梓お姉ちゃんも僕には優しかったんだよね。家に呼んできてくれたり、遊んでくれたり。お祖母ちゃんはまだしも、お姉ちゃんまでそう思う必要なんて全くないのにね」
「それは、ソラ様がお可愛らしいからではないでしょうか?」
「また、そんなこと言って……ん?何それ?」
犬耳と猫耳のカチューシャ?
「梓様のお話を読まれたので、今夜はこういうのがよろしいかと」
要らぬ気遣いが過ぎる……。
「……それは、『僕が』というより、『エルーちゃんが』なんじゃないの?」
耳まで真っ赤にしたエルーちゃんを見て、もっと見たくなってしまったため、僕は猫の方を選んで頭につける。
「にゃあにゃあ」
「……!!!!」
顔を真っ赤にしたエルーちゃんは僕を目から離さず、そのまま器用に犬耳の方をつけて恥ずかしそうに上目遣いをする。
「くぅ~ん、わん、わん……」
「……」
「わん……?」
……なんだそれ、胸を押し付けて。
まるで食べてくださいって言っているようじゃないか。
反則だよ、そんなの。
「にゃあんっ!」
「きゃっ!?」
……僕、梓お姉ちゃんのこと悪く言えなくなりそう。




