第682話 両性
「私達記録室員は、事実確認のため記録している内容を把握している必要が御座います」
「事実確認、ですか?」
「はい。転写の依頼がないとき、主に聖女院内の事実確認のご依頼を受けております。例えば……そうですね、聖女史の教材に歴史的間違いがあってはなりません。そのため事実確認の作業が必要で、それは本来なら聖女史編纂室のお仕事なのですが、編纂室は教科書の内容すべての事実確認をするために、我々記録室に毎回来て資料を寄越すのでは二度手間になってしまいます。ですから管理者である私達自身がその確認作業を代わりに行うのです」
「なるほど……」
「聖女史の教材は世界共通で編纂室が作ったものを使っているため、その事実確認は年に一度の改訂を見るだけですが、もっと早い期間で来る依頼も御座います」
「ああ、もしかして『編集室』ですか?」
「ご慧眼、感服いたします。聖女様の最新のニュースを新聞や雑誌などの書籍で発行している聖女院編集室では、絶対に嘘を広めることがあってはなりません。ですのでその事実確認のために編集室もまた我々記録室に依頼するのです」
あの雑誌もエフィー編集長やミア様達だけでなく、案外色々な人達が関わってできているんだね。
「つまり、雑誌の最新のニュースを知らなくてはならないから、私達生きている人達の記録も確認していると……」
「はい。勿論見聞きした内容を他言はいたしませんし、御本人以外には話すこともいたしません。我々記録室はその信用を買われて雇われている身ですし、それに外に漏らすことができないように私は聖女院から外に出ることを許されないことを条件にお勤めをいただいておりますから」
「け、結構厳しいんですね……。それって結婚のお相手探したり、家族に会ったり、趣味で外に行けないのですよね……?」
「庭園には出られますから、そこまで不自由というわけでも御座いませんよ。家族には向こうから来て貰うか、それかここ聖女院に家族を連れて暮らすかですね。実は我々聖女院でお見合い相手を募集している人達用に、編集室の発行しているNew SAINT内に名前と顔写真を載せて募集するページがあるのです。集まった人の中で、聖女院にお越しいただいてお見合いを行うんです」
「色々考えられているんですね……。でも、たまには息抜きしたくなりませんか?」
色々と知られてしまって恥ずかしいとか思っていたけれど、墓場まで持っていく勢いでそれらに従事してくださっている記録室の人達の覚悟を知ってしまうと、流石に茶化したり恥ずかしいだなんて言っているわけにもいかない。
「大聖女様がしてくださるのでしたら、ひとつだけ質問してもよろしいでしょうか?」
その時、タイミングが良いのか悪いのか、エルーちゃんがお茶を持って入ってきた。
「大聖女様は……両性具有者なのでしょうか?」
「は……?」
この人、何言っているの……?




