第680話 転写
「えっ……!?」
かぁっと赤く染まるエルーちゃんの姿を見るだけで、答えが分かってしまった。
「その……基本的に魔力を灯しているように言われているので、自然とそうなってしまうことが……」
ええとつまり、知らぬ間に情事を記録していることがあると……。
一瞬、日記を見られて恥ずかしがるエルーちゃんを想像してしまい、「ちょっといいかも」なんて思ってしまった自分を恥じたい。
いくら恋人同士だとしても、見られたくないことのひとつや二つくらいあるだろう。
いや、そんなことより僕とエルーちゃんの情事の中身が全て後世に残るなんて、それは出来ればご勘弁願いたいなぁ。
ジーナさんみたく専属メイドと付き合ったディアナさんもそうだったろうけど、これは本来「記録係」である専属メイドが「当事者」になってしまうからこそ起きてしまった事故のようなものなのだろう。
なんだかゲームの抜け穴みたいだな……。
「少なくとも、あの夜は記録にあるかと……」
「そ、そっか……。なら今度からその記録のブレスレットは外そっか」
「えっ……」
「えっ……?」
なんでそんなに残念そうな……。
「あ、いえ!ソラ様がそうおっしゃるのでしたら……」
「いや、エルーちゃんが望まないなら外さなくていいんだけど……え、そうなの……?」
外したくないってことは、記録しておきたいって言っているようなものなんだけど……。
それは火遊びくらい危ないというかリスクあることだって理解しているのかな……?
「あの、私はソラ様との出来事は全て幸せな思い出ですし、それは忘れずに記録したいと思っているだけで……」
流石に誤魔化しているということくらいは、僕にでも分かる。
「エルーちゃんはもしかして、私にそういうのを見られて悦ぶタイプ?」
わぁ、顔真っ赤。
でも首を横には振っていない。
ずるいな……これを聞いて喜んでいる内心の自分がいる。
せっかく色々と我慢してるのに、こうして理性を壊そうとしてくるのはやめてほしい。
「と、とりあえず入りましょう!」
「失礼します……」
「記録室」と表札のある部屋に僕が入ると、最敬礼で頭を下げている帽子を被る女性のストレートヘアの襟足が垂れていた。
「大聖女様に御挨拶申し上げます。ここ記録室を管理している司書のジュリアンと申します」
「初めまして。奏天です」
「本日は、いかがなさいましたか?」
「あの、ご覧になられますか?」
「えっ……あ、ああ。ええと……」
エルーちゃんから事前に聞いた話だと、保存の観点から、原典はこの部屋からの持ち出しが出来ない規則になっている。
ただそれだとここで読まなくちゃいけなくなってしまうので、お金を払えば司書さん達が内容を転写した紙を渡してくれるらしい。
ただこの転写紙には魔法がかけられており、聖女院の外へ持ち出すことはできないのだという。
「初代の嶺楓と92代の嶺梓、それと……私の分の転写本が欲しいです」
「……!」
顔を真っ赤にしてまで遠回しにおねだりされたことには、流石に答えないとね。
しかしエルーちゃんが「私はソラ様の思った以上にえっち」って言っていたけれど、本当にそうだったな……。
今からやぶ蛇の予感はするけれど、今後の幸せな夫婦生活のためにつつけるだけつついておいた方が良い気がする。




