第678話 死別
「「……」」
「それから、私達は引っ越ししたの。これ以上居ると、私のせいで全てを失うと思ったから。サツキお姉ちゃんとお別れするのは辛かったけれど、私が引っ越せばサツキお姉ちゃんは狙われないのは分かってたから。もっとセキュリティの高いマンションで、ボディーガードまで付けて、父は必死だったわ。私は絵美にベッタリだったから、一時期笑わなくなって父を心配させてしまったわ」
サクラさんはその後、淡々と話していた。
人伝に亡くなったことを聞いたことしかない僕にとって、目の前で亡くなることの感情を全て理解することはできない。
もしかしたら真さんをサクラさんのお腹の子であった真桜ちゃんとして受け入れたのは、メイドの絵美さんのようなことを二度と起こしたくなかったからなのかもしれない。
そうでなければエリス様からのお願いに、あんなに即決はできなかっただろうから。
「それでもなお狙われ続けてね。私は真桜やソラちゃんやリンちゃんみたく学校生活や家庭環境には問題がなかったけど、常に命を狙われていたから。それに疲れて一度は命を投げ出そうとしたわ。『私が居なければ、もう両親が苦しまなくて済む』ってね。私がエリスと会ったのは、丁度そんな時だったかしら?」
「ぐすっ……そんなの、あんまりです……」
「エルーちゃん、私のために泣いてくれてありがとう。あなたが手を握っていてくれたおかげで、全て話せたわ」
「私には、それくらいしかできませんから……」
「話したら少しすっきりしたわ。皆聞いてくれてありがとう」
「ソラ様、お次はどちらに?」
「サクラさんの話聞いてたら、行きたいところができたの。行っても良い?」
「勿論です。それに私も、御挨拶させていただきたいと思っておりましたので」
「ほんと、エルーちゃんには敵わないや」
王城の裏手の森、聖墓。
「そういえばエルーちゃんとここに来るのは初めてだっけ」
「あの、そもそもここは聖女様やそのご遺族様方が許可した方々しか入ることを許可されていないのです」
「なら、今後はエルーちゃんも入れるね」
「ソ、ソラ様……!」
エルーちゃんも家族になるのだから。
「まずは梓お姉ちゃん。ええと、92だから……ここか」
こうして格式ある墓石に自分の家族の名が刻まれているの、なんというか「The 王族」って感じして慣れないな……。
軽く清掃して花を添え、手を合わせる。
梓お姉ちゃん、未来のお嫁さんをつれてきました。
僕はこの世界に来て、お祖母ちゃんと従姉が急に亡くなったことを知った。
お祖母ちゃんは魔王と戦って亡くなった。
梓お姉ちゃんは寿命で亡くなった。
でもその事実を突きつけられても、実際にもう生きてる姿も死んでる姿も見ることはできないのだ。
その喪失感が現実味を帯びていなかったために、感情が追い付いてきていなかった。
続いて、お祖母ちゃんのところである初代の墓標で手を合わせる。
「寂しい……というのが、正しいのかも」
「……」
「『死んでもう会えない』って事実を急に叩きつけられて、まだその事実が飲み込めてないんだと思う。だから、『ずっと会えなくて、寂しい』って、そう思って誤魔化しているんだろうな」
エルーちゃんは僕の言葉をただ聞いていた。
彼女達はあの世界で、僕の理解者だった。
幼い頃のそういった思い出というのは、美化されがちなものなのだろう。
「せめて、言葉が聞きたかったな……」
「……手がないわけでは、ございませんよ」
「えっ……?」




