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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第677話 令嬢

「『ファッションのYUUKIグループ』と言って、あなた達に馴染みはあるかしら?」

「えっ……?」


 そんなの男の僕でも知ってる、大手企業だ。

 全国どころではなく世界規模に展開しており、礼服だけでなくカジュアルでお洒落な服を中心に販売している。


「まさか」

「ええ、私は柚季グループに囲まれて育った一人娘よ」

「本当のお嬢様って、いるんだ……」

「あら、真桜のところだっていいところの家でしょう?」


 聖女の身の上話は軽くだけど聞いている。 

 真桜ちゃんのところは塾に通わせるお金があったんだからそれなりには稼いでいたのだろう。

 うちは僕とお父さんが稼いでいたけれど、母と姉があるだけ使ってしまうどころか知らないうちに借金までしてきたくらいなので、ほとんど火の車状態だった。

 柊さんのところは父親が離婚して女遊びに金を使っていたらしく、借金はしなかったにしろあまり裕福ではなかったらしい。

 まぁこういうのってただの運だし、結局自立できるまではあるがままを受け入れるしかないんだよね。


「いや、社長の娘と比べないでよ……」


 それはそう。


「ともかくうちはそんなだったんだけど、父は一代社長だったから、元々は一軒家に住んでいたの。当時はセキュリティが甘くても許されていたというか、あまりうちも騒がれるほど人気じゃなかったから問題なかったの。でも小学校に上がったくらいから、変なやつにつけ回されるようになったのよ」


 段々と暗くなっていくサクラさんの表情に、エルーちゃんがぎゅっと握りしめると笑みを取り戻してくれた。


「きっかけは多分、父は私を溺愛してたからね。父ったら、ひどいのよ?色んなインタビューで私を自慢していたの。私は別にそれほど賢くもないし、これといって取り柄もないのにね」


 いや、まず第一にとてつもなく美人でしょうに。

 僕がコンプレックスを持つくらい顔が良い人しかいないこの世界でなお美人と称されるのだから、相当なのだということにもっと自覚をもって欲しい。


「父は目をつけられやすいというか、敵が多かったの。何せ一代社長の成り上がり。よく思わない者も多かったわ。だから父が一番に愛していた私を狙う輩が出てきたの」

「そんな……」

「最初は家にいるうちは問題なくて、家を空けることの多かった両親に、メイドの絵美が居てくれるだけで良かった。でも絵美が買い物行ったりしているときに誰もいなくなるから、お隣さんの下野さんの家にはよくお世話になっていたの。年は離れているけど、それでも私にとっては近かったサツキお姉ちゃんと遊ぶのが好きで、おじさんもおばさんもよくしてくれた」


 懐かしそうにしながらも淡々と話す仕草が怪談話をしているようで、少し不気味だった。


「でもやがてストーカーがしつこくなってきていたのよ。私は誰かと一緒でないと外に出られなかったし、学校でも不審者が現れてくる始末。それでもね、サツキお姉ちゃんがよく助けてくれたの。身を呈して囮になってまで私のことを家に帰してくれたり、警察呼んでくれたり。絵美も女だし危ないからって、三人で遊んだりお菓子作ったこともあったわ。私はもちろん怖さもあったけれど、サツキお姉ちゃんと絵美のおかげで乗り越えられていたのよ」


 やがて徐々に感情がこもってくると、声に涙が乗って来ていた。


「車から降りた時を狙ってきたり、学校が安全でなくなってきた時にはもう両親は移住と転校を見当していたわ。両親としては普通の生活が続けたくてあの一軒家に居着いていたらしいけれど、それも叶わなかった。でも決定打が来てしまったの」


 エルーちゃんに握られた彼女の手が震えていた。

 エルーちゃんの特殊能力でさえ、この震えと感情は鎮められないということに他ならない。


「……その日はよく……覚えているわ。サツキお姉ちゃんの家に居てね……暗くなってきたから……帰ったの……」


 段々と言葉が幼くなっていることに本人が気付いていないのかもしれない。

 それだけ辛いことを話しているということだけはわかる。


「……ソファで寝ていた……絵美にただいまって……声かけても……返事がなくてね……サツキお姉ちゃんが……電気つけて……そこで、ぐすっ、はじめて……気付いたの」


 もう、聞かなくても結末は分かる。


「絵美はね、殺されたの……そのストーカーに」

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