第671話 謹慎
「もしかして、僕達はとても大変なことを聞いてしまったのでは?」
「言いふらさなければ大丈夫です。大事な娘さんをいただくのに、不義理なことはできませんから」
「ソラ様……」
僕のせいで聖女信仰が薄れてしまうのは本望ではない。
それにいくらエリス様に許可を貰っているからといって、本当に何をしてもいいわけじゃないだろう。
「私、息子が欲しかったんです」
「テレシアさん……」
「どうか母と呼んでくださいませんか?」
「でしたら、僕のことも父と」
「ホークスお義父さん、テレシアお義母さん……嬉しいです」
翌朝。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「えっ、聞こえてたの!?」
「エルーちゃん、それお義母さんのカマかけだから……」
「あっ……!?」
お義母さんのマリーゴールドのような陽気な笑顔で意地悪言うのずるいな……。
まぁそれを聞いて顔真っ赤にするエルーちゃんが見れたから良しかな。
「うふふ。ですが、シーツが汚れていないのはいただけませんね」
「お、お母さんっ!!」
厄介小姑みたいな台詞だけど、言ってること逆なんだよね……。
どこに既成事実を作りたがる親御さんが……って、ここにいるのか。
「私の時なんて、婚約した当日にシーツが汚れたもの。堪え性のないお父さんでしょう?」
やめてあげてよ。
ご両親のそんな話聞きたくないでしょ……。
「それよりライマン公爵家御一行がお越しになられています」
「いけない、待たせてしまいましたか?」
「ソラ様がお待たせする分には問題ないでしょう」
「でも、向こうもお仕事があるだろうし、急ごう、エルーちゃん!」
「えっ、私も行くのですか?」
「エルーシア、あなたもお呼びだしを受けていますよ」
「えええっ!?」
トーストをかきいれてから、お義父さんについていき会館のような施設の客間に案内される。
「失礼します。ソラ様をお連れしました」
「夏休み前以来ですね、ソラ様。エルーシア様も」
「ノエルさんに、スカーレットさん!それにレオルク君……!」
「ごきげんよう、皆様」
「ごきげんよう、ソラ様、エルーシア様」
「おひさしぶりです、そらさま!」
「レオルク君、背伸びたね」
「おとなになりました」
「うん、格好良くなったね」
僕を抜かすのも時間の問題かもな……。
「ソラ様、この度は我が領地の危機をお救いくださり、誠にありがとうございました」
「つきまして何か御礼をと……」
「頭をお上げください、エルド公爵に、キリエ公爵夫人……。聖女として当然のことをしたまでです。既に西の村の皆さんには沢山お礼とパンや麦茶、ビールをいただきましたし、聖女院にいつも通りお支払くださればそれで大丈夫ですから」
「そこまで仰られては……」
既に沢山もらっているのだから、これ以上貰うのは良くない。
だから牽制のつもりで先に全部言ったことで、交渉の余地を減らしたつもりでいた。
「お父様、攻め方を間違えておりますわ」
攻め方って、別にこちらは戦いをしているつもりはないんだけど……。
「エルーシアさん、そのブローチ、素敵ですわね」
「はい!先日ソラ様からいただいたんです」
エルーちゃんが胸のブローチを大事そうに触る。
「とても素晴らしいプレゼントですね。そういえば先日ソラ様がいらしたのはエルーシアさんの帰省についてきたとのことでしたが……」
……ここまで露骨だと、流石に分かるよね。
僕は合図とばかりに、エルーちゃんの手を繋ぐ。
「実は先日、エルーちゃんと婚約の約束をしまして……」
「まぁっ!」
「おめでとうございます!これでやっとSクラスの皆様が安心できますわね」
「そ、そんなに分かりやすかったですか?」
「ええ、むしろまだくっついていなかったのかと言われる始末でしたわ。お父様達からは謹慎を言い渡されておりましたが、いらぬ心配でしたでしょう?」
謹慎とは、みんなの成績が下がったことと関係しているのだろう。
もし僕の焦がれる相手が自分達に関係があるのであれば身を引くという行為そのもののことを言っているのかもしれない。
僕が決めるまで余計な波風を立てないということなのだろう。
「でしたら、私から提案がございます」
ノエルさんは静かに代案を口にした。




