第670話 白状
沈黙の間、僕は愛しい彼女の青く綺麗な瞳を見ていた。
顔は紅いものの、目はぱっちりと開いて瞳が輝いて見えた。
「あ、あの……私っ!おっちょこちょいでドジをしてしまうことも多いです……」
「そこが可愛いんだから。でも、最近はそれも減ってきたでしょう?」
きっと、自分に自信がついたからだと思う。
「酔っぱらうと泣いてご迷惑をおかけしてしまいます……」
「いつも泣いたり体調崩して迷惑かけてるのはむしろ私だよ。それに泣きたいときは、頼って欲しいな」
「それにあの、私……その、え……えっちですよ?」
「記憶を共有しているから、エルーちゃんがとってもえっちなのは知ってるよ」
僕の返答に、かぁっと顔を真っ赤にするエルーちゃん。
寮の部屋で毎日していることは記憶の共有で知っているし、そうでなくともたまに外に声が漏れているのも知っている。
なるべく記憶の奥底に封印しようとはしているものの、ミア様とソーニャさんと三人でしていることなんかもあったらしく、その性欲は「発情期の獣人種と同じくらい」だということだ。
僕の甲斐性が試されている気がするけれど、愛する人のためならどんとこいだ。
「ええと、その……。毎日、求めて……しまう、かも、しれません」
「それも含めてエルーちゃんなんだから、私が拒否するわけないでしょう?でも卒業するまでは婚約にする予定だから、その……本番は一緒に我慢しようね」
「ほ、ほんっ……!?」
むしろ、そんな理由で断られたら困る。
前世も含めて初めての告白なんだから。
「エルーちゃんに、私以外に好きな人がいるなら諦める」
「ず、ずるいです……」
見開いた目は、やがて細くなって、僕を受け入れてくれた。
「私も世界でただ一人、ソラ様をお慕いしています」
僕は初めて、自分の意思でキスをした。
サファイアのブローチに口付けをすると、僕の聖印が虹色に灯る。
サファイアの中に光る聖印が虹を見せているかのようで綺麗だった。
「聖印までつけるのはちょっと独占欲が強いかな?」と思ったけれど、喜んでくれたようで嬉しかった。
「ご婚約、お受けしてくれますか?」
「勿論です。ですが……条件がございます!」
未来の奥さんは、早速強かに宣言をした。
「おかえりなさ……まあ!」
テレシアさんは僕とエルーちゃんが手を繋いで帰ってきたことにいち早く気付いていた。
「おめでとうございます!」
「おめでとう、エルー」
「ええと、よろしいのですか?」
こういうのって、「娘さんをください」って言うものだと思っていたのだけれど。
ここに来て、異世界流肩透かしを食らったような気分だ。
「ええ、そもそも聖女様ですから、拒否権などありません」
「いえ、嫌でしたら断っていただいても……大事な娘さんですし」
「それに文通でエルーがソラ様に気があったことくらい、気が付いていますから」
「あらあなた?文通などせずとも、私は気付いていましたよ」
「そんな超能力は母の特権なのだから、僕には無理だよ」
「それはあなたが本にかまけて娘を見てこなかったからでしょう?」
「お、お父さん、お母さん……!」
「うふふ、ごめんなさい。続きはお風呂で聞きましょうか」
「あっ、ちょっと待ってください!」
お、お風呂はマズい!?
でもここで止めるのもおかしな話だし……。
夏なのに凍りついた空気を何とかするため、僕は諦めて白状することにした。
「あの、すみません……私男なので、テレシアさんと一緒に入るのは、ちょっと……」
その言葉に、ホークスさんの手に持っていた分厚い本がゴトリと落ちた。




