第667話 再度
「ど、どうしたのでしょうか?」
「私より、エルーちゃんの方が詳しくないの?」
「強いて言えば収穫時期になると村の皆で作業を手伝うので皆さん畑にいたりしますが」
「でも、さっき見た畑には誰も……」
「ひとまず、私の実家にご案内します」
「ただいま。お父さん、お母さん?」
「お邪魔します」
一度として来たことはないけれど、僕の記憶にもある、レンガ造りの家だ。
ここが、エルーちゃんの生まれ育った家……。
「すみません、出払っているみたいで。母は昔からよく外に出ていますが父はあまり外に出るタイプでは……」
共有した知識通りだと、確かエルーちゃんの父親は聖女学や神学の学者さんで、ここ西の村では研究や執筆をしながら培ってきた薬学の知識で診療所のようなことをしていらっしゃるそうだ。
母親はその補佐をしつつエルーちゃんを育てていた。
きっとエルーちゃんのメイドとしてのお世話力は母親譲りで、頭の良さは父親譲りなのだろう。
「人っ子一人いない……」
胸がざわざわする。
かつてこんなことがあった時に、まず疑うべきことがあったはすだ。
その真相を確かめるべく僕は『患グラス』を取り出して着けた。
壁を貫通して患者が発見できるこの方法なら――
「まずい、疫病だ……!!」
「えっ……!?」
エルーちゃんも患グラスを着けると、真っ青な顔をしていた。
「そ、そんな……!?」
「急ぐよっ!」
「は、はいっ!」
患グラスで赤く光っている人の集まっているところに急いで向かう。
お食事処のような場所に集まっていたらしい。
この世界の疫病は空気感染で薬による解決法もないので、広めないためにはシャットアウトするしか手がない。
「皆さん、ご無事ですかっ!!」
「エルーシア!?それに……」
「大聖女様!?」
「ソラ様、お願いします」
「大丈夫、任せて!」
既に斑点ができてしまっていたが、幸い広まり始めのようだ。
『――邪を祓い二豎を浄化せし一滴よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――――すべてを浄化せよ、ハイエリア・セラピー!――』
シンク汚れが取れるかのように黒い斑点が皆さんの腕や顔から取れていくのが見て取れる。
「す、すごい……」
「これが、大聖女様の奇跡……!」
「ハープちゃん、これで見回りしてきてくれる?」
「分かった」
ハープちゃんに患グラスを渡して空から感染が広がっていないか周辺地域を見て貰う。
「た、助かりました!」
「す、すげぇ……」
「流石は大聖女様だ!」
「まだ発症から一日で、領主様にもご報告を入れたのが朝のことでしたのに、もういらっしゃるとは……!重ね重ね、御礼申し上げます!」
「ソラ様、こちら村長のレルクさんです」
「これは、名乗りもあげず失礼を!レルクと申します」
「いえ、お気になさらず。すみません、西の村に来たのはたまたまで、エルーちゃんの里帰りに付いてきただけなんです」
現在疫病の処置担当はサクラさんで、僕ではない。
魔王との戦闘で魔物との戦闘がトラウマとなったため、こういった疫病や病気関連の依頼や対応はサクラさんが率先して受けてくれている。
「なんと!でしたらエルーシアにも感謝しなければなりませんな」
「いえ、そんな……」
「今夜は大聖女様がお助けくださった記念に一杯引っ掛けようじゃねぇか!」
「そんなこと言って、あなた達いつも飲んでるじゃないの」
その日、宴会は夜まで続いた。




