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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話178 想い人

【エルーシア視点】

 聖女学園の学園祭、『聖女祭』。

 外部からも参加が可能なこの催しに参加するのは、これで三度目です。

 例年沢山の方々が訪れる聖女祭ですが、今年はいつもの10倍以上の人々が訪れています。


 それもそのはず、シエラ様が三年生になられて大聖女ソラ様であることを明かし、その上聖女リン様までご入学なされたのです。

 たとえお披露目式でそのご尊顔を拝んでいようとも、生で拝めるという数少ない機会を逃すまいと沢山の方々が押し寄せています。

 聖女親衛隊の皆様が警備をしてくださっておりますが、それでもあまりよろしくない輩は現れるものです。


「ソラ様、白百合の花のように咲き誇るあなたの笑顔に惚れました」

「ちょっと待ちなさい!ソラ様は女性愛者よ!」

「ソラ様、私自慢のクマのぬいぐるみ部屋がございますのよ!」


 一人の男性がソラ様に求婚したことを皮切りに、私も私もと次々に周囲の歯止めが効かなくなっていくご様子でした。

 本来不敬であるその流れを止めるものはおらず、警備の親衛隊の方々やリリエラ様がしびれを切らそうとした時、動かれたのはソラ様でした。


「ええと、ありがとうございます。私なんかが皆様にこんにゃにお気持ちをいただけるというのは、幸せに思います」


 こんな時でも変わらずにねこカフェの店員さんとしてのお務めを果たされるなんて、大変可愛らし……いえ、素晴らしい御方です。


「ですが、申し訳ございません。()()()()()()()()()()()()()ので……ええと、その…………許してにゃん♪」

「えっ……」


 今、なんと……?


「「「「ええええええぇえぇえええぇ!?!?」」」」


 この日初めて、ソラ様は想い人が既にいらっしゃることを告げたのです。




「エルーシア」

「ごきげんよう、カーラ様」

「久しぶりね」

「お久しぶりです。その……おめでとうございます」

「あら、耳が早いわね」


 カーラ様は真桜様の聖女親衛隊長であらせられるマルクス様とご婚約なされたという話は、聖女院のメイドなら全員が知っております。

 外部に機密情報を洩らせない聖女院のメイド達はその抑圧のせいかメイド間で噂話をするのが大の好物。

 そんなメイド達にとって特に恋愛に関していえば、専売特許のようなもの。

 夫や妻、婚約者だけでなく、どのメイドがどの殿方や婦人を狙っているかすらメイドの間ではすぐに知れ渡ってしまう程なのです。


「今度はあなたの番よ。あなたは、どうするの?」

「……」


 もちろん私がソラ様をお慕いしていることも、皆様には筒抜けなのでしょう。


「私は、後悔しないために私の方から告げたの」

「えっ……?」

「行き遅れた私は、サクラ様がアレン……様とくっついて初めて、一度目の恋で告白をしなかったことを悔いたの。たとえ玉砕されることがあらかじめ決められていたことだとしても、サクラ様に一度は想いを伝えるべきだと、当時のメイド全員に言われたわ」


 元々サクラ様は、女性愛者ではありませんでした。

 つまり、それはカーラ様にとっては「望み薄」の恋だったはずです。


「マルクスと再開して二度目の恋をして、私は二度と後悔したくなかったの。だから『女性からするのははしたない』などといったこちらの慣習や価値観を全部捨てて、ありのままの私を伝えることにしたの」


 これはその結果掴み取った婚約だとでも言うように、誇らしげになさっておられました。


「だって、もったいないでしょう?」

「もったいない……ですか?」

「告白すれば、もし断られても、その人に一生『断った落ち目』という"傷跡"を残すことができる。そして私に会うたびにそれを思い出してくれるようになる。でも告白をしなければ、私のことは向こうの記憶に何一つ残らなくなるかもしれない……」


 カーラ様が私の首元をくいっと上げて目を覗くようになさるそのお姿は、かつて『白銀の女神』と言われたその美貌を余すことなく見せているように見えました。


「たとえ擦り傷でもいい……爪痕を残しなさい。それが恋心を受け入れ、伝えるというものよ、エルーシア」


 ソラ様は既にお心を病まれるほど、悪夢をよく見るほど心が傷ついておありです。

 そんなソラ様のお心にさらに傷をつけてしまえば、今よりもっと酷いことになりませんでしょうか?


 「そうなるくらいならば私のこの心の一つくらい、胸のうちに秘めておくほうがいい」などと考えてしまうのは、私のエゴなのでしょうか?


「……ご指導いただき、感謝申し上げます」


 その答えは、カーラ様が去ったあとも一向に出ませんでした。

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