第661話 正室
「失礼するよ」
「失礼いたします」
「エレノアさんに、アレクシア女王まで……」
今日はいろんな人が僕のところまで来るな……。
「部屋着ですみません……」
「いえ……大変可愛らしくあらせられますね」
見事なお世辞だ。
「そうですか、バルトログ伯爵は牢に……」
「ソラ様とリン様のお陰で、未然に防ぐことができました。重ねて御礼申し上げます」
「……アイヴィ王女が、僕に教えてくれたんです。このままいくとエレノアさんは出産後に死んでしまうって。僕が動けたのはアイヴィ王女のお陰です」
「そうですか、アイヴィが……。あの娘には迷惑ばかりかけていますね……」
「だが、どうしてドラグ伯が奴隷商から買っている証拠を掴んだんだい?」
「それはただの偶然です。バルトログ伯爵の行方を追っていたところ娼館に居た時に偶然口走っていたのを聞いたんです。僕が証拠を掴まなくてもそのうち公になっていた可能性は高そうですけどね……」
貴族の噂は伝染病のごとく広まるからね。
僕も今や不名誉な二つ名や噂ばかりだ。
「ですが、奴隷商と繋がっていた貴族を炙り出すのも早くありませんでしたか?」
「実はリッチが南の国と聖国の国境を跨げた理由が分からず、少し前から秘密裏に聖影に調べてもらっていたんです。まさかそれが奴隷を秘密裏に送るために検閲をパスしていただなんて思いませんでしたが……」
「だが竜人種の他種族との妊娠は深刻な問題だ。今後も起こり得ることだろう」
「そこでなんですが、エレノアさんのチームには人工子宮の研究を優先的に進めてもらえませんか?現状ではどうしても種族としての本能的にあぶれてしまう竜人種は、出てきてしまいますから。もう、これ以上同じ犠牲者を出さないためにも……」
クラフト研究室は研究内容毎にいくつかのチームに分かれており、アンネ室長とエレノアさんがそれぞれのチームのアドバイザーとして就いている。
「ただエレノアさんは王女としての公務が御座いますから、負担が軽くなるよう代わりに執政官を派遣するように聖女院から手配します。それと妙な噂もあるようですから、『僕が無理してお願いしている』のだということを示す証明書を発行できるようお願いしておきます」
そもそも慣例を破っているのだから、それについて周囲から何も言われないということはないだろう。
このことは、むしろ僕が気づいて動くべきだったことだ。
「ソラ様、寛大なご配慮、ありがとうございます。しかし、そうしていると本当に殿方なのですね……」
「あっ……」
パジャマだと気が抜けていて良くないな……。
エレノアさんが去った後、アレクシアさんはこんなことを言ってきた。
「ソラ様、こんなことを申し上げるのは大変恐縮なのですが、側室でもいいのでアレを貰ってやってはいただけないでしょうか?聖女様を政治に巻き込んではいけないとしているにも関わらず、アレは二度も巻き込んでしまいました。その事で北の貴族からはあまりよく思われていないようで、貰い手もどんどんと減っていきます。その上婚約するとソラ様がお止めになるのでソラ様が囲っておられると噂する者まで出てきているようなのです」
「うっ……」
「エレノアの好意には気付いていらっしゃるのでしょう?」
「……はい。私にはもったいないとは思っていますけどね」
「でしたら」
「すみません。今は側室とかはまだ考えていませんので……」
はっとするアレクシアさん。
「つまり、正室は既に……?」
「あっ……!?」
「なるほど、でしたらまだ希望はありそうですね」
この手の話題、どんどん墓穴を掘っている気がするよ……。




