閑話176 買い物
【カーラ視点】
『カーラ!明日買い物行くから空けといてね!』
『なんと!真桜様とデートですか!?』
『そうよ。噴水広場に集合ね!』
『はいっ!』
……と、真桜様から嬉しいお誘いがあった翌日のこと。
「おっ?なんでカーラがここに居んだ?」
「マ、マルクスっ!?」
なんと、『聖女の通り道』の噴水広場にいたのはマルクスだったのです。
私の左辺りから紙のパラという音が聞こえると、手提げのカバンの中に無理矢理入れたような一枚の紙がございました。
魔法文字で丁寧に「がんがれ」とだけ書かれたものを見ると、これが真桜様の仕業であることに気がつきました。
急いで書いたのか誤字をなさっているところを見て、それすら愛おしく感じてしまった私は、しっかりとチャック付きの袋にメモ書きを綺麗に折り畳んでしまいました。
「ああ、姫様のイタズラか?」
「ちょ、丁度暇していたのでしょう?で、でしたら私の買い物に付き合ってください」
「ああ、いいぜ」
「そういやこうして買い物行くのも、ガキの頃以来だな……」
「え、ええ。そうですね……」
誘うことには成功しましたが、マルクスが私のことを全く意識していないので、本当に買い物の付き添いだと思っているのでしょう。
この鈍感男には何度もやられてきましたが、もう私はそんな期待などしないと決めたのです。
「あの頃はジーナ様が魔王にやられて聖国も壊滅的だったからな。備蓄もあまりなくて買い物に行くだけでも大変だった」
「幼い頃、私は熱ばかり出して、ほとんど孤児院のお手伝いが出来ませんでしたから。あの時は本当に申し訳ありませんでした」
「……俺は料理も裁縫もてんで出来ねぇからな。だからこういうのは……」
「『適材適所』、でしょう?」
彼のその言葉に、私がどれだけ助けられてきたことか。
そのお陰で私が目指すメイドへの道が開けたのですから。
だから、私も後ろを向くのはもう最後にしようと思います。
「最後に、あそこに寄っていいかしら?」
「……?」
「なっつかしいなぁ、ここ」
「聖女院が良く見えるのよね」
買い物を終え私達の居た孤児院から少し離れたところにある山に来ると、もう日は落ちていました。
「私が聖女院を目指すようになったのは、ここで誓ったからだということを覚えていますか?」
「なんだ、お前も覚えていたんじゃねぇか」
みんなで、一緒に聖女院に行こう。
所詮、子供の時の夢。
それでも、孤児院の皆で願った夢でした。
「結局、聖女院に来れたのは私達二人だけでしたけれどね……」
「あり得ない倍率だからな。これでも快挙なんだぞ?」
「ええ。ですが、もうひとつの約束、覚えていますか?」
「もうひとつ?……んなもんあったか?」
生意気なおでこをぺちんと叩くと、その膝が少し下がりました。
「いてっ!おい、何すんだっ!」
「いいですか?もう一度しか言いませんから、もう聞き逃すんじゃありませんわよ」
もう、病弱で弱気な私は、そこにはいませんでした。
「ふたりの夢が叶ったその時は、貴方のお嫁さんにしてくださいませ!」




