閑話175 ごっこ
【セリーヌ視点】
「マルクス!」
「おっ、姫様!なんだ?また悪いこと考えてんのか?」
別に本日はまだ悪事はしていないのですが……。
「これも悪役令嬢への一歩というわけよ」
「またごっこ遊びか?女ってやつは、好きだなぁ」
「偏見よ。男だって別にそういうの好きなのはいるでしょ?」
悪役令嬢とは、聖女様のいらっしゃる世界で流行っていた小説のジャンルのひとつだそうで、敢えて悪事を働いていると醜聞を広めることで人々の恐怖を駆り立て抑止力となり得たり、主役と反対のことを言うことで国や貴族の均衡を保つと言われている存在なのだそうです。
私としてはサクラ様やソラ様のように一生懸命にお救いくださる姿の方が……いえ、聖女様に貴賤はありませんね。
主様を悪く言うのはやめておきましょう。
前世の記憶があらせられるとはいえ、彼女はまだ1歳なのですから。
私がお姉ちゃんとして、おままごとには真摯にお付き合いして差し上げなければ。
とはいえ真桜様もずっとお戯ればかりしているわけではございません。
真桜様は私と一緒にお勉強したり、医務室で回復魔法を使っていただいたり、伝道師の方々に講義したりと到底一歳児とは思えない働きぶりでいらっしゃいます。
「まあ、俺もガキの頃カーラ達に付き合ってやってたが……」
「へぇ、案外面倒見いいんだ」
「案外ってなんだ案外って……」
「いや、そんな厳つい顔でおままごとって、想像できないし……」
「……まあ、当時は聖国が魔王に襲われて大変だったからな。孤児院では冬なんかは食い物も少ない時期もあった。走ると腹減るから、そういった動かない遊びばかりやってたな」
「……ごめん」
「気にすんな。もう昔の話だ。それに悪いのは魔王だしな」
悪役令嬢と言っていらしていたのに、ご自身が本当に悪いと思われている時はこうして素直に謝られるのですから、やはり悪役令嬢には向いていらっしゃらないのではないでしょうか……?
「それで?何のようだ?」
「あ、そうそう!明日休みでしょ?」
「え?ああ、まぁ非番だが……」
「じゃあさ、ちょっと買い物、付き合ってよ」
「ほ、本当にこんな誘い方でよろしかったのですか?」
「ま、なんとかなるっしょ!」
「そんな楽観的な……。というかそもそも、真桜さ……真様って前世で彼氏とかいらしたのですか?」
「……いるわけないでしょ。あたしゃガリ勉の喪女よ」
前世で義母に虐待されていたマコト様はひたすら良い子でいようと、勉強を頑張っておられたようです。
ですがマコト様がいくらご勉学に励もうと、良い成績を残そうと、義母との関係は善くはならなかったそうです。
「それではこのアドバイス、間違っていたのでは……?」
「何よ、セリーヌならアドバイス出来てたっていうの……?まさか貴女、彼氏……」
「居ませんからっ!」
「焦らせないでよ……。その年で貫通してたら、私は今自殺していたわよ」
「な、なんて話するんですかっ!ほ、ほら、いらっしゃいましたよ!」




