第652話 運動
「い、行きましょう」
中に入ると、強い香水と……何か独特な匂いがする……。
これは、くらくらしてくる……。
「んんっ、はぁんっ……」
「「!?」」
なんか明らかに特定のテンポでナニかを叩きつける音がするのは、気のせいじゃないよね……?
いくら成人しているとはいえ、こんなところ、僕には早すぎるよぉっ!!
「んっ、すごおぃっ!バルトログ様ぁっ!」
「クソッ、クソッ!あの老いぼれめ、種無しの分際でまだ盛りよって……!これではオレ達若者の出番が回って来んではないかっ!」
「んんっ、そんなっ、ことっ!」
運動会……多分運動会をしているんだよ、きっと。
「んはあああっ!はぁ、はぁ……今は我慢の時ですわ、バルトログ様。もうすぐハデス伯の時代も終わることでしょう」
「ふはははは、そうなればついに、オレの時代よ!」
や、やっと終わった……。
ハデス辺境伯は北の国で一番強いお年寄りの竜人族だと聞いている。
竜人種は人種族と比べると長生きなので、結構お歳を召している方が経験値が多く強かったりする。
なので今はハデス辺境伯が引退するまでは他の竜人種貴族男性には竜人種令嬢が回って来ないのだという。
「そうだな、今は辛抱だ。幸い王家からスペアも貰ったことだしな」
「さすがですわ!」
「ふはははは、王族もバカだよな!オレが邪魔な親父の死なんて悲しむはずないのに、わざわざ生け贄を用意してくれるんだからよ!」
「……!」
正直動機が揃いすぎているとは思っていたけれど。
やはりエレノアさんを一時しのぎの代替嫁だと思っていた……。
「お偉いさん方は使い捨てだなんて知らないだろうけどな!オレ様の考え抜いたチミツな作戦を後で知って、恐れおののくコトだろう!」
「素敵……!」
「それに奴隷は王女だけじゃないのさ!ふふ、今頃南の国からオレの子を生むためのスペアも出立しているトコロだろう……!ふふふふふ、ふはははは!」
なっ、なんだって……!?
この世界で奴隷制度は禁止だ。
それに南の国……?
僕、何か忘れている点と点が繋がりそうな気がしているんだけど……。
な、何だったっけ……?
変な香りと欲情を掻き立ててくる音のせいで、まともな考えができなくなっている気がする。
そうしていると、ふいに真横から声が聞こえてきたのだ。
「んんっ!?」
「えっ……!?」
誰の声……?
と思って声の主を探すと、顔を真っ赤にした柊さんが慌てた様子で口を手で塞いでいた。
「なっ、ダレだっ!?」
ば、バレたっ……!?




