第651話 竜車
「し、娼館なんて、初めて見ました……」
「しょ、娼館ですか……!?」
「声が大きいよ、柊さん……」
「す、すみません……」
いやでも、どうして『駐車場』……?
自動車なんてそもそもないからね、この世界。
「ソラ様っ、欲求不満なら、私なんかでよければ代わりにして差し上げるから……」
いや、そんな最低な理由でするのはちょっと……。
それに私なんかって、涼花さん程の美人とできるなんてご褒美以外の何物でもないと思う。
「り、涼花さんこそ顔が真っ赤ですよ……」
「私のことはいいんだ……」
「わ、私が居ること忘れてませんか……?」
「す、すみません、リン様……」
逆に柊さんが居て助かった……。
涼花さんと二人きりだったら、きっと変な雰囲気になってしまっていたことだろう。
その時、娼館の扉が開かれる。
なんか独特の匂いがしてから、何人かの娼婦と思わしき竜人種の女性が出てきた。
「はぁーあ、またバルトログ様が来ているわ」
「強くないのに、性欲だけは強いのよね……」
「そりゃあそうでしょ。強ければ私達平民なんて抱いてないわよ」
「しっ、聞こえる……!まったく、不敬罪で捕まるわよ」
竜人種の貴族の娘は強い竜人種の当主や子息に群がるので、その恩恵を受けられない。
鳶が鷹を生むではないけれど、この世界では鷹が鳶を生むことも大いにあり得るのだ。
今でこそ涼花さんも母親である橘葵さんと比べられ『聖女のフン』などと言われてきた。
実際にはそれは誤解で、ある程度のステータスまでならレベルを上げればつけられるし、その後もグミさえあればいくらでも強くなれる。
生まれに関係なく、後天的に鷹になれるのがこの世界だ。
まあエルーちゃんや涼花さんみたいな天才がたまにいるから、そういうステータスで埋まらない差というのはもうどうしようもないんだけどね。
ともあれ、だから溢れてしまった残り物貴族の男たちは娼館に行くか、それこそエレノアさんのような竜人種以外の種族でその……発散するしか方法がないのだろう。
「でも聞いた?あの男、王女に手を出してるって噂よ」
「そんなのみんな知ってるわよ。アイツがその自慢に浸りながら突いてくるのだから、ウチの嬢なら知っていて当然よ」
うわぁ、生々しい会話しないでよ……。
でも裏でこんな会話されていたら、男の秘密なんてそりゃあすぐばれるよなぁと思ってしまう。
「人種族を娶るなんて竜人にとって何の自慢にならないのにね」
「それでも人種族の貴族相手には自慢になるらしいわよ」
「へぇ、人種族はよく分からないわね……」
「コラ、休憩は終わりよ!」
「はぁーい」
「おお、くわばらくわばら……」
中に戻って行く娼婦の女性たち。
「「「……」」」
僕たちはお互いに顔を見合わせた。
顔は真っ赤だけれど、どうやら真相を掴むにはこの中に入る必要が出てきたらしい。




