第650話 駐車
「どうする、ソラ様?」
蝋燭二つに竜の顔の石像がある、いかにも迷宮のボス部屋前のような扉の前には門兵も二人いた。
強者の余裕とも言うべき竜人種の中で、わざわざ仕切りを作る必要がある集団。
どう考えても「ここから先、貴族関係者が居る」と言っているようなものだろう。
「仕方ない……獏、眩惑」
「?Zzz……」
「ごめんなさい……」
謝りながらも二人の竜人種を昏倒させ、扉を静かに開ける。
「は、犯罪では……?」
「ああ、聖女様に犯罪なんてものはないですよ」
「???」
柊さんの反応が普通なんだよ、涼花さん。
そこは地下の貴族街、とも言うべき華やかな空間だった。
「す、凄いですね……」
道路に沿って赤い絨毯が敷かれているのは、おそらく竜人種の足を冷やさないためだろう。
竜人種は基本裸足で靴を履かないので北国の冷たい地下の床はあまり健康に良くない。
「絶対に聖女が絡んでますよね、ここ……」
「ああ、おそらくここは第89代の関口怜様が作ったとされる地下歓楽街だろう」
「確かに、テレビとかで見たことある雰囲気ですね……」
ネオンの看板が立ち並ぶ歓楽街。
飲食店やレジャー施設など様々なものが建ち並ぶ。
フィストリア王家はリタさんの一件から立て直そうとしておりお金もあまりない中、これほどの賑やかな貴族街を築けるなど、明らかに羽振りが良すぎる。
竜人種は基本的に武力で成り上がった貴族が多いはずなので、お金の出所が怪しい感じがする。
何故なら戦争もなく魔族が減っている今、リッチが襲来する以外の危機は北の国にはないはずだからだ。
「むむむ……」
リタさんの件で弱みを握られているからか、慰謝料をせがまれていたのかもしれない。
アレクシア女王もエレノアさんも悪くはないのに、いやむしろ被害者なのに、たった一人、外家から嫁いできたリタさんのせいで本来王家や町の復興に使うべきお金を明け渡さないといけない。
毛ほどのものまで全てを見られる王家の連帯責任とは、至極重い責任だと思う。
「ダメだ」
「えっ……」
突然涼花さんが僕の目を覆うように抱きつく。
何が何やらよく分からなかったが、ラベンダーの大人の香りにふにゅりと顔に当たる感触がした。
「っ、ダメだ。私が案内するから、二人とも目を瞑るんだ」
「ひゃあっ……!」
そ、そんなこと言われても……!
視界が暗くなったことで視覚情報が消え、今の僕にあるのはいい匂いとり、涼花さんの胸と思われる感触。
そんなの、思春期の男に堪えろというのが難しい話だよっ!
僕はせめて気を紛らわせようとちょっと屈み込んで視界を開かせようとしたところ、運良くネオンサインのロゴと思わしきものが涼花さんの腕と胸の隙間から見えた。
「『駐車場』……?」
「あっ、こらソラ様!?見てはいけない。ここはまだ早い……」
ん?まだ早い……?
あっ、ここってもしかして……。
しょ、娼館……!?




