第649話 警備
僕は聖女院に戻り、クラフト研究室に急いだ。
あの時、もっとちゃんとエレノアさんと向き合っていれば……。
僕のせいだ。
「ソラ様?」
僕たちに隠して死を受け入れているように見えて、彼女自身未練があったんだ。
「お願いします、皆さん!私に力を貸してくださいっ!!」
クラフト研究室の皆さんに土下座し、僕はとあるお願いをした――。
「――天先輩、どちらに?」
「ドラグ伯爵家に行ってきます」
「お供しよう」
「ええと、獏を使おうと思っているので、あまり大所帯になるのは……」
「なるほど、だが二人なら大丈夫だろう?」
「わ、私も行きます!」
「柊さんまで……」
「私も、力になりたい、です……」
「では、折角ですから二人で何とかしましょうか」
「二人で……あっ」
途中で気付いた柊さんはこくりと頷くと、僕と同じように杖を取り出した。
『『――幻影を照らす寡黙なる聖獣よ、今ひと度吾等に力を貸し与えたまえ――――顕現せよ、聖獣獏――』』
湖の浮島であるフィストリア王城からおよそ北西に位置するほとり。
そこから山岳地帯に向かうと、途中で山を削ったような大きな洞窟がある。
竜人種はからだの一部が鱗のため爬虫類的な要素があり、気温に影響を受けやすい特徴がある。
だからこそこうした洞窟に棲みかを作る傾向があるらしく、竜人種の貴族も同様だ。
「獏、お願い」
掛け声と共に獏と僕、柊さん、涼花さんが透明になる。
「ここからは声を抑えてくださいね」
「は、はい……」
「承知した」
洞窟とはいえ岩がむき出しになっているようなところは入り口の辺りくらいで、明らかに魔法でくりぬいたような感じだ。
暗かったらどうしようと思っていたけれど、よく使われる入り口のようで、灯りが等間隔で設置されていた。
扉は開ける時に音を立ててしまうので、出来ることなら扉に遭遇したくはない。
貴族家の御屋敷ともなれば、普通は厳重な警備があって、盗人が来ないように何重にも関所を用意し、屋敷の門にもドアにも門番さんが居るものだけれど、ここにはまったくない。
竜人種は強さに種としての価値を見出だす種族なので、ハイエルフ種が「魔力量」に強く優越感を抱いているように、竜人種もまた「強さ」に優越感を抱いているらしい。
そのため「盗人に入られる」ことはその後倒してしまうからどうでもいいと考えている節があるそうな。
だけど何もせずにただ盗まれれば「お前が弱かったから」という理由になるらしく、別に盗人を受け入れているわけでもないらしい。
「入られても逃がさない」から問題余裕の現れなのだろうか?
幸いなことに今のところ扉の類いのものはない……と思っていたら。
「……ありましたね、門」




