第646話 伴侶
「あらまあ!涼花様も同志だったのですね……!」
いや、涼花さんも僕と同じでかわいいもの好きなだけ。
もふもふはもちろん嫌いではないけど、たまたまスノーラビットがかわいいともふもふのベン図の共通部分に居ただけだからで……。
「天先輩も、こういうのお好きですよね?」
「うぅっ、そ、そうですけど……」
なんでそんなこと知っているのって思ったけど、柊さん、前世の僕の視聴者だったんだっけ……。
や、やりにくいというか、どんな弱み握られているかわからないの、怖すぎる……。
「確か、『第2回!弟にゴスロリさせてぬいぐるみを与えてみた♥️』……でしたか?」
「え゛っ……!?」
ちょっ、涼花さん何言ってんの!?
「ハート」とか、涼花さんの低くて美しい声から出ているなんて想像できな……じゃなくて!
「ど、どうしてそれを……!?」
「そ、そうです!第1回の時のシックなゴスロリも似合うんですけど、やっぱりピンクで可愛いゴスロリですよね!」
「な゛っ……!?」
そういえば涼花さんとは前世の知識を共有したんだったとようやく思い至った頃には、柊さんもヒートアップしてもう手がつけられなく……。
「ええ、可愛いゴスロリに恥ずかしがっているところをくまのぬいぐるみで口元だけ隠す……高度な視線誘導のように見えて実は隠れている方が色々な想像を掻き立てむしろ扇情的に映ることも知らずに……」
「ぢょっ……!?」
「涼花さんは、よく分かってますね!」
「お誉めに預かり光栄です。リン様こそ、よくご存じで」
な、何この公開処刑……。
でもそうだよね、どうせ僕の前世なんて、全部僕の弱みだしな……あ、あは、あはははは……。
「あは、あはははは……私なんて、私なんてどうせ…………」
「今度は、天先輩が壊れた……」
あなた達が壊したんだよ。
「ふふふ、幸せ……」
僕の壊れた心を鎮めるのは、やはり可愛い生き物だけだ。
「こうして束の間の幸せを満喫できるのも、ソラ様が、そして皆様が頑張ってこられたお陰でございます」
「そんな大袈裟な……」
「そんなソラ様にお願いがございます」
「?」
「お姉様の婚約者をご存じでしょうか?」
「ドラグ伯爵ですか?」
「いえ、すみません。言い方がよくありませんでした。ドラグ伯爵率いる竜人種という種族のことはご存じでしょうか?」
「ええと、竜の鱗を持つ人型の種族で、魔法も物理もそつなくこなす戦闘能力に長けた一族のことですよね?」
「はい。お三方は竜人種の繁殖方法についてはご存じですか?」
「は、繁殖方法ですか……?」
中等部に上がったばかりの女の子からまさかそんな下世話なお話が出てくるとは思わず、びっくりしてしまった。
でも成人の年齢が低いこの世界では、そういうのに興味を持ってもおかしくない年頃なんだろうか?
「ええ。竜人種は現在数を減らしており、いわば少子化が問題となっておりました。竜人種は男女共に戦闘が三度の飯よりも好物であり、伴侶を決めるときも戦闘においてのサラブレッドを作るために本能的に一番強い竜人を好きになるそうです。そのため繁殖を忘れ戦いの中に身を置くことを選ぶ者も多く、竜人種は生涯で伴侶を作らない者も少なくないのです」
確かにゲームではそんな設定あったかもしれないけど、改めて考えるとすごい種族だな……。
不謹慎かもしれないけど、学園長と意見合いそう……。
「ですがそれだけではありません。竜人種ではその集落で一番強い男に竜人の娘が群がってしまうため、他の男達には竜人の娘が回ってこないのです。先代のカイザー・ドラグ伯爵はそんな竜人種の少子化に対策を講じるべく動いていた貴族でした」
それに異を唱えた人が、ドラグ伯爵だったのか。
「ドラグ伯爵が提唱したのは、そうして溢れた竜人種の男の伴侶に、竜人以外の種族の女性を充てることです。幸い竜人と他種族とのハーフだとしても、竜人種の血は強く、生まれるのは竜人種となるそうです」
そこまで聞くとドラグ伯爵はいい人のように見えたが、本質はまったく違っていた。
「しかし問題は、他種族の女性の方です」
「あれ?そもそも竜人種って、卵生なんですか?胎生なんですか?」
「胎生です」
「ま、まさか……」
「ええ、ソラ様ご懸念の通り、そこが問題なのです。竜人は肉食。竜人の胎児はお腹にいるときからお腹を噛んでくるそうで、それは強靭なお腹の内部を持つ竜人種の母親のものなら硬く噛みちぎることは不可能ですが、他の種族の胎内では平気で噛みきれてしまうんです」
「そ、そんな……!?」
「つまり、竜人種を孕んだ別種族の母親は、お腹を噛みちぎられて死ぬってことかい……?」
「はい。今まで竜人種を生んで生き残った確率は、 0パーセント……。竜人種に娶られるということは、子供を一人生んで死ぬのと同義なのです」




