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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第644話 殺人

 リタさんが、亡くなったって……。


「エレノア、サクラ様から口止めされていただろう!」

「いいや、伝えるかどうかは任せると仰っていたのを忘れたのかい?」

「私の、せいで……」

「ソラ君、キミのせいじゃない。だから、キミが涙する必要はないんだ」


 僕が情けなくもエレノアさんが僕を抱き締めて安心させようとしてくれる。

 ほのかに石鹸のいい香りが僕を落ち着かせてくれる気がした。


「ソラ様、最近ようやく判明しましたが、あの女は影で魔王四天王インキュバスと繋がっておりました」

「うっ、ぐすっ……。でも……」


 片方に肩入れする以上、僕自身が嫌われることはもとより覚悟の上だ。


 分かってる。

 あの時リタさんはインキュバスの魅了状態になっていなかったから、操られていなかった。

 だから本人の意思で呪具を求め、インキュバスの闇商人と取引をしていた。

 でもリタさんだって、本当は死にたかったわけではないはずだ。


「大丈夫。あなたの悲しみは、私が一緒に背負うから」


 今度は涼花さんが僕を包み込むと、柔らかい感触に椿のようなほんのり甘い香りがして、僕を落ち着かせてくれた。




『部外者の分際で……王家にちょっかいを出さなければ、今頃……』

『リ、リタさん……』

『私を殺して得た平和の分だけ、お前を呪うわ……』

『ぐぅっ……』


 形のない黒い煙が僕の周りに纏わりついて離れない。

 く、首が……く、るし……!


『あら?奇遇じゃない。私も天に殺されたのよ。だから地獄の果てからお前を呪い殺してやるわ。だって、』

『おね、ちゃ……』

『あら、こんなところにいたの?この人殺し』

『おか……さ……』

『人殺し』

『人殺し』

『おとっ、さん……』

『ソラ、お前まさか……人を殺したのか?』

『ちが……』


 そんなゴミを見る目で見ないで。

 またあの時みたいに缶ビールを一気に飲み干すと、それを潰して僕に向かってポンと放り投げてくる。


『ふざけるな!お前なんか……勘当だ!今すぐ出ていけ!』


 そんな、折角お父さんと仲直りできたと思ったのに……!


『出ていけ!』

『出ていけ!!』

『出ていけ!!!』

『い、いやぁ……っ!!!!』

「……はぁっ!?はぁーっ、はぁーっ、はぁっ、はっ……」


 ゆ、夢……。

 よく考えるとリタさんと僕の家族なんて接点ないし、気付いてもおかしくないのに、夢ってどうしておかしいことも事実だと受け入れちゃうんだろうな……。

 でもそれは、心の奥底で自分が納得できてないからなのかもしれない。


「おはよう、ソラ様」

「はぁっ……りょうかさん?」


 涼花さんからは一粒の涙が伝っていた。

 先程地獄を見ていた僕にとって朝日に照らされたその光景は、まるで映画の切り取られたワンシーンかのように綺麗に見えていた。


「ソラ様、私達はお互いに恥ずかしいところも全てさらけ出した仲だ。私はあなたと恋仲にはなれずとも、それを分かち合うことはできる。もう隠し合う必要なんて、何もないんだ」

「うぁ……うぅ……ごめん、なさいっ……。りたさん、ごめ、なさいぃいぃっ!!」


 もう夏も近付く頃に手が悴む寒い朝、僕は涼花さんの胸の中でみっともなく泣いていた。

 

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