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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第643話 婚約

「まだお忙しそうですけど、落ち着いてきましたか?」

「ええ、大分。それもこれもソラ様のお陰でございます」

「天先輩の……?」

「当時、ウィリアム伯父様と結婚していたリタによって、お母様は毒を盛られて体調を崩しておりました」

「ソラ様はもう半ば実権を握られようとしていたところを颯爽と助けてくださったのです」


 正直僕が何もしなくても、解決しそうな事件ではあった。

 執事のバルトさんが証拠は掴んでいたし、あとは反乱因子を押さえるだけの力さえあればよかっただけだったし。


「これもエリス様のお導きでしょうか」

「あの時から信心深くなって……都合のいい女だよ、まったく」

「なっ、ソラ様の前で変なことを言うな!それに、信心深いことは別に悪いことではないだろう?」

「声や表情を作っているだけならまだいいさ。いつもよりめかしこんでいるこれはどう説明するつもりだい?未亡人とはいえオバサンがソラ君を狙おうだなんて、夢の見すぎだよ」

「エレノアこそ、いつもは30分なのに準備に二時間もかけていただろう!」

「やっぱ仲良いですよね、二人とも」

「「良くない!」です!」

「ほら、息ピッタリ……」

「「む、むぅぅ……」」


 むしろこれを見ていると、どうして親子だと気が付かなかったのか不思議なくらいだ。


「それに、ボクにはもう()()()が居るんだから」

「えっ……えええええっ!?」


 エレノアさんに、婚約者っ!?




 アレクシア女王の兄ウィリアムさんは、エレノアさんがまだ幼い頃に崖崩れに巻き込まれて亡くなっている。


「ただ、その時崖崩れに巻き込まれたのは我が兄ウィリアムだけではございませんでした」


 なんと犠牲者の中には、貴族家、それも伯爵家のご当主が居たのだという。


「それが竜人種のドラグ伯爵です」


 しかしエレノアさんが王女になった時、あの崖崩れは狡猾なリタさんの思惑によって意図的に引き起こされたことだと、世間に知れ渡ってしまった。

 リタさんから王権を取り戻すためとはいえ公にしてしまったことで、ドラグ伯爵の件も事故ではなく事件となってしまった。


「王家がしてしまった過失であるから、ドラグ伯爵家には賠償をしなければならなくなったのです」

「そんな……」


 エレノアさんだって、むしろ被害者なのに……。


「まあ、ボクの婚約はその人質みたいなものさ」

「エレノアッ!」

「事実だろう?それにボクが王位を退くには、他家に嫁ぐしか道がないのさ。だからこちらとしても好都合なのさ」


 ドラグ伯爵家は現在、息子が受け継いでいるという。

 そのドラグ伯爵から望まれては、王家としても断れなかったのだという。


「まあ仮初でもボクは人生のほとんどを『リタが親』だと思って生きてきた。その親が居ない以上、親の不始末は、子が償うしかないだろう?」

「えっ……!?リタさんが、死んだ……!?」

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