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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第642話 目覚

「すみません、すみません!」

「い、いえ。こちらこそ勘違いしてしまい、申し訳ございませんでした……」


 後先考えずにGO(ゴー)サインを出したのは僕だ。

 平謝りする僕に、門番の方々もまさか僕だとは思わずに武器を構えてしまったことを謝っていた。


「何してるんだ、キミ達は……」

「エレノア王女殿下!」

「まあここはボクに免じてお互い許してくれたまえよ」

「は、はぁ……」

「助かりました、エレノア様」

「涼花君も久しいな。卒業式ぶりか」

「ええ」

「初めまして、聖女リン様。ボクはエレノア。最近王女になった名ばかりの第一王女だよ」

「ひ、柊凛と申します……よろしくお願いします」

「さ、アレクシアが待っている。ついてきたまえ」




 宝飾品が豪華になっているところを見ると、少しは羽振りが良くなったのかもしれない。

 リタさんが贅沢していただけかもしれないけど、そこから立て直せたのはエレノアさん含む王家の手腕によるものだろう。

 名ばかりとは言ったのを鵜呑みにすることなかれ、其の実ただの本人の照れ隠しだ。

 やはりエレノア王女の頭脳を求めている首脳陣は多くいるようで、聖女院クラフト研究室との二足の草鞋を履いているにも関わらず、彼女は両方を完璧にこなしている。


「アレクシア、連れてきたよ」


 頑なに母と呼ばないのは、やはりもう母親とは呼びたくないことのあらわれなのかもしれない。

 リタさんのせいもあっただろうけど、それでも実の親に自分の子だと見分けられなかったことは簡単に赦せることではないのだろう。

 きっとアレクシア女王もそれがあるから次期女王の件を強く言えないのだと思う。


「ソラ様、此度の行幸、まことに嬉しく思います。そして初めまして聖女リン様。フィストリア女王のアレクシアと申します。涼花様もご健勝で」

「第二王女、アイヴィと申しますわ」

「ひ、柊凛です!よ、よろしくおね……」

「リン様、こんなポンコツ女王に頭なんて下げる必要ないよ」

「エレノア!」

「リタなんかにしてやられるようでは、この先心配だよ」

「お前、言っていいことと悪いことが……」

「はいはい、すぐ喧嘩なさるんですから。私からすればお二人とも朝はポンコツなんですから、どんぐりの背比べです!」

「「アイヴィ、リン様の御膳で言わずとも良いだろうッ!?」」


 ハモってるし……。

 やっぱり親子、仲良いのでは……?


「朝が弱いの、相変わらずなんですね……」

「う、ソラ君まで……」

「私も、朝は苦手です……」

「おお、同志だったのですね!」

「はい。寝起きはよくない方で、最近はいつも東子ちゃんに起こしてもらってて……」

「リン様、それはゆさゆさと優しく起こされるのではないか?」

「は、はい。そうですけど……」

「ああ、()()()()()()レベルなら、まだ大丈夫ですよ……」

「えっ……」

「ええ、本当に」


 アイヴィ王女も苦労しているみたいだ。

 僕、エレノアさんとは一年間朱雀寮で共に生活していたけれど、結局一度も僕が起こせたことはなかったからなぁ……。

 寮母のフローリアさんと二人がかりでようやく起こせたことはあるけれど、それもほとんどフローリアさんのお陰だし……。


「お母様とお姉様は南の国の小人族が作った世界一うるさい目覚しでさえ全く意味を成しませんから。最近ではメイド五人がかりで布団を剥がし、手足を持ち上げてようやく起きるのです」

「う、うわぁ……」


 メイドの無駄遣いとは言わないけれど、なかなかに人件費の掛かる目覚ましだなぁ……。

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