第640話 邪魔
翌朝、僕たちは北の国フィストリアに到着した。
ここは年中雪が降る地域。
前来たときは親友を助けるために一人王城に潜ったなぁ……。
「柊さん、夕方頃になったら王城に向かいましょう」
「うう、緊張する……」
「大丈夫ですよ。アレクシア女王は比較的聖女相手には温厚な方ですし、二人の王女も好奇心はあるでしょうがそれだけですから」
最初は誤解していたけれど、アレクシア女王はいい人だ。
「ソラ様、どちらに?」
「一度聖女院に戻ります。報告しておきたいことがあるので」
「一緒に行こう」
「ではワープ陣は見張っておきます」
「よろしくお願いします」
一年生は今頃先生方と巨大暖房魔道具施設の見学に行っていることだろう。
宿屋を取って、見張りをケイリーさんに任せ、ワープ陣を敷き転移する。
「おかえりなさいませ、ソラ様」
聖女院の皆さんに挨拶しながら執務室に向かうと、扉の前にいたシル君がこちらに気付いて頭を下げてきた。
「ただいま、シル君。ルークさんはいるかな?」
「はい、執務室にいらっしゃいますが……あっ」
尻すぼみに少し聞こえていた違和感に僕は気付かず、そのまま執務室の扉を開けると、そこにいたのはリリエラさんとルークさんだけだった。
「あっ……」
入ってすぐに、僕がやらかしてしまったことに気づいた。
「ソ、ソソソソソラ様っ!?」
休憩中に仲良くお茶を飲んでいただけだったのだけれど、慌てて距離を離していたところを見るに、甘い空気が醸し出していたのだと思う。
「ええと、これはその、サボっていたわけではなく、そ、そそその……」
「リリエラ、危ない!」
「きゃあっ!?」
思考の暴れが手にまで現れだした時、かちゃりと置こうとしたティーカップが置くべき場所であったコースターからずれたのだ。
恋は盲目、世は情け。
滑り行くティーカップを追いかけようとするリリエラさんの手をルークさんが一人冷静にがっしりとつかんで止め、包容を交わす。
それはこれから割れるであろうティーカップを触ってリリエラさんが怪我をしないようにとの配慮だったのだけれど、なんか余計に見ていられない姿になってしまっているような……。
まあそんな二人の仲良しさを見るまでもなく、パリンと大きな音を立てて割れたティーカップを何とかしなければ。
「リカバー」
「す、すみません、ソラ様……」
「いえ、休憩中にお邪魔した私が悪いですから。すみませんでした……。ええと、また……あとで伺いますね?」
「ちょっ、一緒に居ていいですからっ!?」
「変に空気を読まないでくださいましっ!!」
だって、馬には蹴られたくないし……。




