第638話 奇行
「ノアと申します。先程は申し訳ございませんでした……」
「私達生徒一同、お姉様方のお手を煩わせることになってしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「いや、私は怒ってないから気にしないで。でも詳しい話は聞きたいから、残りは馬車の中で話さない?」
「ひっ……」
「お姉様、聞き方悪いですわよ」
取調室に連れ込むわけじゃないんだから、そんなに怯えなくとも……。
「ソラ様、周囲の敵は殲滅しました」
「ありがとうございます、ケイリーさん。では馬車に戻りましょう」
ララちゃんが居ると素直に話してくれなさそうだったので、ララちゃんは一時的に別の馬車に移動してもらい、代わりにノアちゃんを招き入れることに。
「お姉様。ノア様の奇行は、ドライ公爵に命令されていたからに他なりませんわ」
奇行て……。
もう少しマイルドな言い方はなかったの?
「ど、どうしてそれを……」
「これもアンテナのおかげですのよ?」
また指でピコピコさせる動作をするルージュちゃん。
貴族アンテナ、案外凄いのかも……。
「何百年と前に一度王になって以来、ずっと王は排出されず。王家として、なにもしてこなかったのが今のドライ家です」
ひ、ひどい言われようだ。
「お姉様もご存じの通り、ハインリヒ王家は今までハイエルフのみがその資格を得ていましたわ。ですから『種族そのものが王家』というアンバランスさが、昨今では浮き彫りになりつつありましたわ」
確かにもとの世界で考えると、「明日から人間が全員王家です」と言われているようなものなんだよね。
元々長生きするからあまり繁殖しない種族ではあるものの、やはり年月が経過すれば種族は増えていくもの。
やはりどこかで分裂することは必然的だったのかもしれない。
「元々王家としての責務なんて、現王の家の者達以外果たしていないのですから、贅沢三昧する『王家』を支えるのが『現王』という奇妙な構造になっていたのですわ」
そう言われると、ソフィア女王のあのキレ具合の理由も何となく分かる気がしてくる。
民から吸い上げ公爵家が納めた税金の使い道が、ハイエルフの何もしていない王家達の私腹を肥やすためのものになっていたんだもんね……。
「もうすぐ四半期で国に納税を納める時期。ですが当然元王家が納める税なんて残してあるはずもありませんもの」
「えっ……まさか着服してるんですかっ!?」
「ソラ様。それだけではない、ということだろう」
「ま、まさか……」
「ええ。自身は贅沢三昧。その責任を、子供であるノア様に押し付けたのですわ」




