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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第8章 疑雲猜霧
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閑話17 劇作家

【シェリル視点】

 聖女祭の準備も終わり放課後。


 私は図書室に来ていた。


 今までの私ならこの後帰ったら、お父様によるお説教という名の体罰が待っていたところだ。


 それを助けてくださったのだから、本当にソラ様には頭が上がらなかった。


 でも、今の私達は特に取り柄のないただの女だ。

 エレノア様のように何かの才能があるわけでもなく、同じ朱雀寮のSクラスの皆様のように頭がいいわけでもない。

 だから努力をして、少しでもソラ様の養子として恥ずかしくない人間になる必要があった。


 セラフィーと一緒に頑張ると決めたからには、まず行動だ。

 好きな読書とともに、少しでも知識を増やそうと思った。




 そんなわけで図書室へ来ていた。


 ここにいると落ち着く。

 いろんな嫌なことがあっても、本が全てを忘れさせてくれた。


 いつもはここで読む本を選んでいると、同じく本を選んでいるライラ様とよく会うが、今日は会わなかった。

 聖徒会の方がお忙しいのかもしれない。


 ライラ様は以前、ご自身のことをジャンルを問わずに読まれる乱読家だと評価していらっしゃった。

 私もライラ様を見習ってみるのもいいかもしれない。


 今日はいつもは手にしないこのジャンルの小説にしようと決め、本を取り空席を探した。




 席にはライラ様とソフィア会長がおり、何やらお二人で悩んでいらっしゃった。

 ソフィア会長が図書室にいらっしゃるなんて、とても珍しいことだった。


 私も近くの席に座ると、お二人が気付いてこちらを見た。


「あら、シェリル。今日も読書?」

「は、はい。ライラ様、ソフィア会長、ごきげんよう」

「ごきげんよう。あら、貴女は確かソラ様の……」


 王女さまだからなのか、私のことは知られているみたいだ。


「は、はい。ソラ様の養子となりました、シェリルと申します」

「そうでしたか。貴女も大変でしたね……」

「い、いえ……」


 ソラ様に比べれば、私のいじめなんて些末なことだ。


 挨拶をすませると、机に広げていた書類に目をやる。


「これは……劇の脚本ですか?」

「そうです。聖女祭で聖徒会は演劇をやることにしたんです」

「劇の脚本を会長と二人で作っているのだけど、意見がまとまらなくて……。良かったら、シェリルも読んでみてくれないかしら?」

「よろしいのですか?」

「ええ、勿論」


 軽く目を通す。


「これは……聖国物語……ですか?」


 聖国誕生の聖女史であり、第64代聖女さまであるロサリン様と、彼女が生涯愛したハイエルフの物語だ。


 小説にもなっており、「ハイエルフは、かつて聖女さまが愛した種族」という書き出しを知らない聖国民はいない。




 幼くして聖女となったロサリン様はハイエルフのアリサ様を母親のように慕っていた。

 年の差はあったが異世界で実母のように優しくしてくれたアリサ様への想いは、やがてロサリン様の初恋へと変わる。


 ある冬、行幸で聖女院を離れると魔王が攻め入り、魔王は聖国軍とシルヴィア様が倒したが、アリサ様は還らぬ人となった。

 ロサリン様は悲しみに暮れていたが、アリサ様には二人の子供がいた。


 歳を重ねていくごとに美人になる姉のリース様にかつてのアリサ様を重ねたロサリン様は、二度目の恋に落ちてしまう。


 幾年か後、大人になったロサリン様はリース様と恋仲となり、結婚を控えていた。


 しかしリース様の前に再臨した魔王。

 今度はロサリン様は間に合いシルヴィア様と共に倒すも、毒をうけてしまう。

 死を受け入れたロサリン様は、リース様に「あなたがこの国の王妃様よ」と言って口づけをする。


 ロサリン様がお隠れになられた後、エリス様はその願いを受け入れ、リース・ツェン・ハインリヒ様を王妃として聖国ハインリヒが誕生したというお話だ。




 悲哀のストーリーだが、アリサ様の二人の子供の妹の直系であるソフィア様がこの物語で題材にされるというのは、とても素敵なことだと思った。


「とても良い百合作品ですよね。」

「貴女もそう思う!?」


 突如ライラ様が興奮した。


「私も百合文学の中でも特に古典的なこの作品には思い入れがあってね。初めて触れた百合作品なの。既に子持ちの奥様に恋をしてしまい、その後の子供に恋をしてしまう。幼いロサリン様の心境に共感ができるこの作品は、まさしくユリとロリのバイブルと言っても過言ではないと思うわ!」


 ライラ様がいつもからするとあり得ないほど目を恍惚とさせて捲し立てるように語りだした。


「ライラさん、私も()()だからお気持ちは分かりますが……()、出ていますよ?」

「……あら、失礼」


 眼鏡をくいっとあげて表情が一気に冷めるライラ様。

 たまに図書室で会う程度の関係だから、ライラ様の素は初めて見た。

 いつも凛々しく仕事のできる書記というイメージだったから、心底意外だった。


 お二人は百合同志のようだ。

 とはいえライラ様は何でも読むお方なので、どちらかというと大好きなのはソフィア王女で、ライラ様はジャンルを絞って王女に合わせているという関係なのだろう。


「そのまま演劇をするのだと味気ないのでこれを基に新しい物語を作りたいと思っているんです。でも、なかなかいい案が浮かばなくて……」

「シェリル、今私達は猫の手も借りたい状態です……。何か……アイデアはありませんか?」

「でも、私なんかが……」

「シェリル、貴女……()()()()()()()()()()()()?」


 ハッとした。

 養子である私が自分を卑下することは、ソラ様を貶めることになってしまう。

 まだ自分に自信は持てないけれど、そう言う考えは止めなければ。


 でも、私は妄想が好きなだけのただの本読みだ。

 いつも読んだ本で私が主人公だったら、とか妄想してしまう痛い女だ。

 そんな私にできることは、ただ頭の中の妄想を口に出すことだけだった。


「……現代に合わせてみてはいかがでしょうか?イメージが浮かばないのは、私達が生まれる前の史実だからというのもあるのではないかと……」


「……続けて」

「は、はい……。例えば、主役をロサリン様からソラ様に変えて、魔王によってお隠れになる楓様を悲しむソラ様……それから魔王からソフィア王女を助けて毒を受けるソラ様にするとか……」


「「!?」」


「エリス様の口付けによって毒が治るとか……」


 そこまでの妄想を口にすると、ライラ様がガシッと肩をつかんできた。


「貴女、脚本書いてみない?」


 それは、ソラ様に引き続いて私の人生を大きく変える、二度目の出来事となるのだった。

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