閑話170 逆恨み
【???視点】
「あなたっ、同人サークルの!」
整った顔に尖った耳、夜の光でも輝いて見えるような白髪ロングの美人に、私は覚えがあった。
「このアマッ……!」
フードを被った怪しげな男は、はたかれた手を痛そうにしながらも反撃とばかりに白髪美人に掴みかかった。
「掴んだわね」
「なん……」
「はあっ!」
「うおおっ!」
軽々と一本背負いをすると、私ほどではないにしろ大きな胸が揺れ、フードを被った男がくるりと回転して、気付けば寝転んでいた。
「……んの……」
「警察、呼んで!」
「チィ、覚えてろよ……」
フードを被った男は更に深く被って去っていった。
「逃げられたか……」
「はぁっ、助かりました……」
「落ち着くのは、帰ってからよ。仲間を呼ばれたら困るわ。今のうちに帰りましょ」
「そ、そうですね……」
「歩ける?」
「はい」
その後、なんとか私の家まで帰る。
「お邪魔するわね」
「はい。あの、本当にありがとうございました。ええと」
「ああ、エリスでいいわよ、サツキ」
「えっ……!?どうして私の名前を……」
エリスさんとは以前たまたま近くでやっていた同人イベントで会っており、少し話しただけなのに私がゲーム好きと知ると、「アドバイスが欲しい」と言ってゲームをタダで貰ったのだ。
あのゲーム、結構作り込みがすごくてまだ最後まで出来ていないけれど、きっとこの人は大手のゲーム会社で働いているのかもしれない。
……最初はあんな美貌でエルフのようなコスをしていたから、完全に売り子さんだと思っていたけどね。
「サクラからあなたのこと頼まれてるからね」
「さ、桜ちゃんを知ってるんですか!?今、どこに!?」
柚季桜ちゃんは、私が学生だったとき、お世話になっていたご近所さんの子。
家族ぐるみで付き合いもあり、よく柚季家からお裾分けを貰ってたりしていた。
家族仲はとても良かったけれど、桜ちゃんの両親が共働きで家を空けることが多く、その度にうちで預かっていた。
年もそんなに離れていなかったので、妹のように可愛がっていた。
桜ちゃん達が引っ越してからは連絡を取っていなかったけれど、しばらくしてから両親に聞いたら柚季家はいいところの財閥だったらしく、そりゃあ会えないのも当然のことだと納得した。
今は私も親元を離れて独り暮らしだし、桜ちゃんの話題などてんで聞いていなかった。
「その話は、今は出来ないわ」
「どうして……」
「あなたなら、分かるでしょう?」
「そう、ですね……」
引っ越しするに至ったのは、桜ちゃんがストーカーにつけ狙われていたから。
つまり、私があの男に付け狙われているのを解決しない限り、あのストーカーに情報が渡ってしまうのを恐れているのね。
「まあ、無事だということだけは言っておくわ」
その言葉にほっと撫で下ろすも、自分のことが解決したわけじゃない。
「逆恨みしているんでしょうね。本当に迷惑な奴だわ」
「まあでも、あの時ストーカーから桜ちゃんを守っていたのは、私ですからね」
「でもこのままではあなたの身が危ないわ」
エリスさんが考える素振りをするも、うーん……美人すぎて私の悩みも吹き飛んでしまいそう。
「しばらくここに居候するから、駅までの行き帰りは私と一緒に行きなさい」
「ええっ!?よろしいのですか?」
「ええ。それと引っ越しもした方がいいわ」
「そ、そうですね」
そんなに稼いでいるわけではないのに、そんな贅沢なこと出来ないけれど、致し方ない……。
「それはおいおい準備を進めるとして……手始めにあなた、会社、辞めてきなさい!」
「え……?」
「これからは私が雇ってあげるわ。あんな貧相な給料とはおさらばよ!」
まさかこれが私にとって、人生の変わる出来事になるとは、この時は思いもしなかった。




