閑話168 百三代
【エリス視点】
「はぁぁぁ……!」
ついに!ようやく!手に入れたわ!
「あ、主っ!わたくしめにもお慈悲を……っ!」
「イヤよ。私の感情で満足なさい」
「そんな、ご無体なっ……!」
そんな泣きそうな顔をしながらも、私がサイン入り『慈愛』を開いて見ると、私の感情がシルヴィに投影されて「ほぁぁ……!」と恍惚な顔を浮かべていた。
「何やってるのよあなた達……」
「本当に残念美人すぎる」
「サ、サクラ様に、真桜様まで……」
「ほらこれ、お裾分けよ。いらなかったかしら?」
天庭に来たサクラが持ってきたのは、新たな聖典だった。
「いいえっ!」
「あ、ちょっと!従者のものは、私のものよ!」
「あなた既に持ってるじゃないのよ」
「今はッ!今だけはッ!主の意思に背きますッ!……ほぁぁ……!」
聖典を開いたシルヴィの飛び上がるほどの嬉しい感情が、私に返ってくる。
「これが、ジャパニーズ・ヘンタイ……」
「変態はどっちよ……」
「神と天使がこんなんじゃ、信者泣くで……」
「別に、シュミは勝手でしょう?」
「それより、どうして呼んだの?」
「聖女院、増設しといてもらえるかしら?」
「はあっ!?」
「ま、またなのぉ~?」
呆れた顔のサクラ。
「いいじゃない、カネならいくらでもあるでしょ?」
「あのね、それはソラちゃんのお金よ。全く、ヒモなのはどっちなんだか……」
「金はいいから、労力をおくれ……」
切実な願いをするマオなんて珍しいわね。
前回の採用試験がトラウマにでもなっているのかしら?
「その労力も雇えばいいじゃないの」
「エリス、神のあなたに言っても分からないかもしれないけどね、教育にも時間がかかるのよ……」
「で?誰なのよ」
サクラが私を小突いて来た。
「秘密よ。その方が面白いでしょう?」
「……そう。それにしても、いくらなんでもスパンが短すぎないかしら?」
「確かに。リンちゃんが来てからまだ半年も経ってないでしょ」
「あなた神力は大丈夫なの?」
「確かに神力は使うけど、一ヶ月経てば戻るくらいだから問題ないわ」
頑張れば一ヶ月に一度召喚することも出来なくはないけれど、それでは全神力が召喚に使われてしまうのでシルヴィを動かすことが出来ず、リッチの監視が疎かになりかねないのよね。
「でも別に今は聖女が少ないわけじゃないし、急ぐ必要なんてないでしょう?」
「サクラ様、こっちの世界には急ぐ必要がなくとも、向こうの世界にはあるのです」
「ま、まさかっ!?」
「ええ。今の私には、未来は視えない。でも、監視していればある程度これから起こりそうなことくらいは分かるわ」
リンの尻に火をつけて早くゲームを終わらせるように仕向けたのは、あれ以上向こうの世界に長居していてはいけなかったから。
「もう、マコトみたいなのは、二度と御免よ……」
「……そうね。私も今度は、普通の子が産みたいもの」
「ちょっ、ママ、ヒドいっ!」
サクラは二つ返事で受け入れてくれたけれど、普通の親なら拒絶されてもおかしくはなかった。
「じゃあね、しばらく準備してるから、そっちは任せたわよ」
「分かったわ、親友」
その言葉に安心すると、私は意識を地球に向けていった――




