第631話 決裂
「あの子は?」
「ほら、あのソフィア陛下のおっしゃられた……」
「……ああ!」
涼花さんのヒントに、ぽんと手を置く僕。
あの子が噂のハイエルフ、3公爵家の令嬢か。
「確か……ここから近い谷を経由すれば、ルート的にもそこまで遅れることなく到着できるはずよ」
「は…………?おい、なむーーっ!?」
何かを言おうとしたケイリーさんだったが、咄嗟に涼花さんに口をふさがれた。
顔を赤くして口をふさがれている姿を見るとちょっとイケナイ関係のように見えてしまうのは、僕の心が汚れているからだろうか……?
「……」
いつもなら積極的に意見をするであろうルージュちゃんも黙っていた。
将来公爵家当主になる予定とはいえ、今の彼女は子爵令嬢。
この間は子爵令嬢同士だったから言い返せていたけれど、流石に王家の血を引く強気な公爵家に意見するのは避けたいのだろう。
「ノア。ちょっと、いい?」
「へぇ、ララ!あんたレグリットの暴走の時は我関せずでうまくやったみたいだけれど、今回は口出すのね」
柊さんの助言が借りられない今、王家であるララちゃんであれば確かに口を出す権利があるだろう。
「平和が一番。ぴーす、ぴーす」
「……こんなちんちくりんが王家に残っているのが、不思議でならないわ」
ララちゃん、それどう考えても煽ってるようにしか聞こえないでしょ……。
「その谷は、危険な魔物が多い。迂回ルートなんてない。ここを進むべき」
「でも、この道がどこまで塞がれているかなんて分からないのよ?それに撤去したとしても、また次の雪崩が降ってこないとも限らないわ」
「それでも、谷を進むよりマシ」
ララちゃんが言葉足らずにもそこまで話すと、ノアと呼ばれた少女は怪しげな笑みを浮かべた。
「へぇ、あんたもしかして……冒険者志望のくせに、魔物が怖いんだ。冒険者、向いてないんじゃないの?」
くすくすと笑い出す取り巻きの人達。
黙っていないといけないのは、なんか嫌だな……。
「怖くなきゃ、冒険者に向いてない……」
「何言ってんだか。じゃあ公平性を保って、多数決で決めましょう。谷を進むべきと思う同志は、手を上げなさい」
自分が優勢になってから多数決なんてすれば、結果は一目瞭然。
一部のSクラスの子達と、柊さんの意思にしたがっていたFクラスの子達は手を上げなかったが、それでも大多数が手を上げていた。
「決まりね。では、迂回しましょう」
「はぁ……」
去年もそうだったけれど、やっぱりこうなってしまったか……。




