第7話 学園
「聖女……学園……?」
決して名前にピンと来なかったから聞き返したのではない。
区切り方が『聖女・学園』なのか『聖・女学園』なのかで雲泥の差があるからだ。
それは僕にとって、真っ先に確認しなければならない、大事なことだった。
「『聖女』の作った『女学園』。 ダブルミーニングよ♪ 洒落てるでしょ?」
欲張りセットだった……。
「聖女学園は、この世界の女性の学力を憂いた初代聖女さまが学力の向上を願って作られたの」
サクラさんがアイテムボックスから取り出したパンフレットを渡してきた。
「聖女が転移してきたときの年齢はまちまちだから、高校生以下なら学生として、それ以上なら先生として、何らかの形で関わってきたの。 お金周りに優れた聖女さまが事務職員をやっていたこともあったし、学生寮の寮母さんが聖女さまだったこともあったのよ?」
ということは僕はまだ高校生なので、学生として関われということか。
「そのような歴史ある女学園に、男の私が入るのは不味いのでは……?」
「むしろ逆。 あなたは性別はどうあれ聖女様よ。 先代まですべての聖女が関わってきたこの学園に、百代目の聖女が入らないのは逆に不自然なのよ」
「性別はどうあれ」ってなんだ。
女学園なんだから、性別が一番大事でしょうが。
「それと、この世界の学力は上がったとはいえ正直まだまだなの。 あなたのように成績優秀な子がいると、周りも刺激されてよくなると思うから」
しばし頭を悩ませる。
先生は優しくしてくれたし、勉強は好きな方だった。
でも学校自体には、あまりいい思い出がない。
するとサクラさんは助け船を出してくれた。
「一応、猶予はあるから考えておいてくれればいいわ」
「……いえ、両方お受けします。 ただし、こちらからお受けする条件を付けてもよろしいでしょうか?」
頭を抱えながらそう答えると、姿勢をただしてサクラさんに向き直した。
「……何かしら?」
「エリス様ご自身が3ヶ月以内に私に会って、理由を説明すること。 それと、私の性別を黙ったせいでエルーちゃんを危険にさらしたことについては、エルーちゃんに直接謝ってほしいです」
聖女は女神様と友達……。
であれば、少しくらい強気に言ってもきっと大丈夫だよね?
今は会えないらしいから仕方がないけれど、流石に3か月もあれば忙しくても会えるはず。
正直、エバ聖の件で恩義を感じているからこそ、エルーちゃんの件がとても残念なのだ。
「ちょっ、ちょっと待って!? 危険ってどういう……」
僕は先程エルーちゃんが、パニックで過呼吸になりかけたと説明した――
◆◆◆◆◆
「……本っっっ当にごめんなさい! まさかそんな事故が起きていたなんて。 この件に関しては私は味方のつもりだから。 必ずエリスに会って謝るように言っておくわ!」
「あ、ありがとうございます」
やはり同郷のサクラさんはしっかりしている人のようで、僕は少し安堵した。
「両方とも受けてもらえて助かったわ。 聖女学園の件だけど、あなたは一年生として入ることになるわ。 入学試験は来週で翌週に合格発表があるの。 来月には入学式があるから、よろしくね」
ちょっ、えっ……そんなにすぐなの!?
「試験……ですか!? 私、まだ何も勉強してないのですが……」
「大丈夫よ。 この国は聖女に合わせて日本語と英語を学んで公用語にするようにしているから。 問題も元の世界の高校生なら簡単だと思うし。 聖女が学園生になることもあるから、聖女史は試験対象に含まれてないの」
聖女史……聖女の歴史ってことかな?
それは無くても、歴史はあるってことだよね……?
「で、でもこの世界の歴史はしらないですよ!?」
その言葉を聞くと、なにやらニヤッとしたサクラさん。
「ふふふ、さっき言ったでしょ? この世界はエバ聖と同じ。 クラフト技術も魔法も魔物も歴史も、聖女が歴代いること以外は一緒。 あのゲームをやったあなたなら簡単に答えられることしか試験範囲になっていないのよ」
それはありがたいけど、なんかズルしている気分だね……。
学生のうち、一人だけが廃人プレイヤーなんだから。
まあでも、それならなんでも答えられる気がする。
何せ僕はこの世界をやりすぎていた。
「さて、話は以上。 私はまだ用事があるから先に戻ってて。 ソラ君――これからはソラちゃんと呼ぶわね。 戻りかたは念じるだけ。 ここにまた来たかったら聖女なら念じれば天庭に来れるから、覚えておいて」
「ありがとうございます」
頭の中の優しく微笑むサクラさんが白く薄れていく。
「あっ、そうそう! 明日は新しい聖女様の御披露目式があるから、ヨロシクね!」
「え、ちょ……!?」
最後に投下された爆弾について訊く間もなく、そのまま真っ白い世界がやがて薄れて行く。
気が付くと僕は、天庭から元の客間に戻っていた――




