第7話 学園
「聖女……学園……?」
決して名前にピンと来なかったから聞き返したのではない。
『聖女・学園』なのか『聖・女学園』なのかで雲泥の差があるからだ。それは僕にとって真っ先に確認しないといけない大事なことだ。
「『聖女』の作った『女学園』。ダブルミーニングよ。洒落てるでしょ?」
欲張りセットだった……
「聖女学園はこの世界の女性の学力を憂いた初代聖女さまが学力の向上を願って作られたの。聖女が転移してきたときの年齢はまちまちだから、高校生以下なら学生として、それ以上なら先生として、何らかの形で関わってきたの。お金周りに優れた聖女さまが事務職員をやっていたこともあったし、学生寮の寮母さんが聖女さまだったこともあったのよ?」
ということは、僕はまだ高校生なので学生として関われという意味になる。
「そんな歴史ある女学園に、男が入るのは不味いのでは……?」
「むしろ逆よ。あなたは性別はどうあれ聖女さま。百代目の聖女が入らないのは逆に不自然なのよ。それと、この世界の学力は上がったとはいえ正直まだまだなの。あなたのように成績優秀な子がいると、周りも刺激されてよくなると思うから、どうかしら?」
どうあれってなんだ。性別は重要なファクターじゃないっていうのか……
しばし頭を悩ませる。先生は優しくしてくれたし勉強は好きな方だったけど、学校自体にはあまりいい思い出がない。
するとサクラさんは助け船を出してくれた。
「一応、猶予はあるから考えておいてくれればいいわ」
「…………いえ、両方受けましょう。でも条件があります」
頭を抱えてそう答えると、姿勢をただしてサクラさんに向き直した。
「何かしら?」
「エリス様ご自身が3ヶ月以内に私に会って、理由を説明すること。それと、私の性別を黙ったせいで危険にさらしたことについては直接、エルーちゃんに謝ってください」
今は会えないらしいからしょうがないけど、流石に3か月もあれば忙しくても会えるはず。
正直、エバ聖の件で恩義を感じているからこそ、エルーちゃんの件がとても残念なのだ。
「ちょっ、ちょっとまって!?危険ってどういう……」
僕は簡単にエルーちゃんが極度のストレスによるパニックで過呼吸になりかけたと説明した――
「……。ほんっとうにごめんなさい!まさかそうなっていたとは……。この件に関しては私は味方のつもりだから、必ずエリスに会って謝るように言っておくわ!」
「ありがとうございます」
やっぱり、サクラさんはしっかりしている人でよかった。
「両方とも受けてもらえて助かったわ。聖女学園の件だけど、あなたは一年生として入ることになるわ。入学試験は来週で翌週に合格発表があるの。来月には入学式があるから、よろしくね」
ちょっ、そんなにすぐなの!?
「試験……!?まだ何も勉強してないんですが……」
「大丈夫よ。この国は聖女に合わせて日本語と英語を学んで公用語にするようにしているから。問題も日本人の高校生なら簡単だと思うし。聖女が学園生になることも考えて、入ってから学ぶことになる聖女史は試験対象に含まれてないの」
聖女史……聖女の歴史ってことかな?それは無くても、歴史はあるってことだよね……?
「で、でもこの世界の歴史はしらないですよ!?」
その言葉を聞くと、なにやらニヤッとしたサクラさん。
「ふふふ、さっき言ったでしょ?この世界はエバ聖よ。クラフト技術も魔法も魔物も歴史も、聖女が歴代いること以外はほとんど同じ。あのゲームをやったあなたなら簡単に答えられることしか問題になっていないのよ」
それはありがたいけど、なんかズルしている気分だね……一人だけ廃人プレイヤーなんだから。
まあでもそれならなんでも答えられる気がする。ひとまず安心かも。
「さて、話は以上。私はまだ用事があるから先に戻ってて。ソラ君……これからはソラちゃんと呼ぶわね。戻りかたは念じるだけ。ここにまた来たかったら聖女なら念じれば天庭に来れるから、覚えておいて」
「ありがとうございます」
頭の中の優しく微笑むサクラさんが白く薄れていく。
「あっ、そうそう!明日は新しい聖女様の御披露目式があるから、ヨロシクね!」
「え、ちょ」
最後に投下された爆弾について訊く間もなく、そのまま天庭が薄れて行き、気が付くと僕は元の客間に戻っていた――