第63話 記憶
息がつらい。
「シエラ君、落ち着いて」
「……っ……」
呼吸ができない。
「まずは全部吐きだして。吸うのはそれからだよ」
涼花様に言われるままにやると、徐々に息が整ってきた。
「はあっ………はあっ…………」
「良かった……ひとまず大丈夫みたいだね」
「はぁっ……ありがとう、ございます……」
「は、話の腰を……折ってすみません……。何でも……ないですから……」
そう言うも、膝はガクガクに震え、立とうにも力が入らず立つことができなかった。
「それは流石に説得力がないだろう……」
「わ、私……そんなつもりじゃ……」
ソフィア会長が真っ青だ。
申し訳ないことをしたな……。
「何か、トラウマがあるようだね……。それは、止めておくかい?」
涼花様は演劇、という単語を言わないように配慮してくれる。
だが、ここはもう異世界だ。
異世界まで来て、向こうのトラウマを引きずる必要はないのかもしれない。
「いえ……やります」
「手足が震えているじゃないか……。やっぱり止め……」
「いいえっ!やらせて……ください……」
これもそろそろ克服すべきだという神のお告げなのだろう。
「シエラさん、私はあなたの境遇を何も知りませんが、私はあなたの友人だと思っています。力になれるかは分かりませんが、話せる範囲でいいので話してくださいませんか?」
まだ立ち上がることができない僕に合わせるようにリリエラさんはしゃがんで、僕をまっすぐ見つめてそう聞いてきた。
「……学園祭の演劇は……私が前の学校でいじめられる原因となったイベントなんです……」
その後僕のいじめが学校全体に広がったのは家族のせいだったけど、いじめの起源はこの演劇だった。
まさか手足が震えて立てなくなるほどのトラウマになっていたとは思わなかったけどね……。
「でも演劇自体に罪はありませんし……。私もそろそろ、この感情から卒業してもいいんじゃないかと思ったんです」
相変わらずいじめられやすい体質をしているのは変わらないみたいだけど、僕には信じてくれる、そして信じられる友達ができた。
「……少なくとも私達聖徒会メンバーはシエラ副会長のことを大切に思っております」
ソフィア会長がそう言うと、聖徒会の皆が僕のもとに集まって頷いてくれた。
「私達は、一心同体です。躓いているメンバーがいたら、一緒にその苦難を乗越えられるように協力するのが私のやり方であり、それを会長として最後の一年となる今年の聖徒会のスローガンとします。ですから一人ではなく、共に乗り越えましょう!」
ようやく落ち着いた手足。
ソフィア会長が手を取り、涼花様が肩を僕に貸して起こしてくれた。
「皆さん……ありがとう……ございます」
聖徒会に入って、本当に良かった。