第620話 仮病
数日後、僕のもとにまで噂は広がっていた。
ただ三年生にまで広まっているのは、聖女である柊さんが控えめな点数を取っているのにも関わらず、ルージュちゃんは自分の能力を誇示するように点数を離して首席を取っていることが調子に乗っているというものだった。
そんなこと言ったら僕なんて聖女と明かしていないのにまるで不正のような満点取ったんだし、エレノアさんだって王女であることを隠しながら入試で九割取っていたのだから、既に破綻してはいるのだけれど。
こういうのって当事者が納得できちゃえば、たとえ嘘でも説得力ができてしまうのが嫌なところだ。
「やはり首席は何かと目立ってしまうんでしょうかね……」
「それはあなたが一番ご存じなのでは……?」
「ま、まぁそうかもしれませんが……。忍ちゃんはどうなの?」
リリエラさんに図星を突かれるも、どちらかというと今は僕以外の資料が欲しいんだよね。
僕が虚空に向かって話しかけると、教室の隅っこからすぅっと透明化を解除した忍ちゃんが現れた。
「きゃっ!?」
「私はクラスの生徒と交流がありませんので」
「……友達は作った方がいいと思うよ」
「寮の皆様だけで、私には十分でございます」
「それよりも、いい加減驚かさないでくださいまし!」
「私はお役目がございますので、これで」
「あ、ちょっと待ちなさいっ!あれで貴族なの?全く、どういう教育してるのよ……」
うん、僕もそう思う……。
あれから首席がまた転んだとか、水を被ったとか、そういう陰湿な嫌がらせの話を聞くようになった。
僕の誤算は、みんなを魔物や魔族の脅威からから守るために学園生を強く育てていたことが、悪事に利用されてしまっていることだった。
聖女学園の生徒なら大丈夫だと高を括っていたが、やはり性悪説で教えた方が良かったのかもしれない。
流石に授業に集中できなくなってきた頃、突然どこからか声が聞こえてきた。
「敵の動きを確認しました」
「ひゃぁんんんっ!?」
耳元で囁かれた僕は机に蹲り悶える。
「ソラ様……?」
「授業中ですよ、ソラ様」
「今のエッチなお声は……」
「まさか……発情期?」
忍ちゃんんんん!!!
タイミング考えてよっ!
自分だけ獏で透明になってるからって、ずるいよ!!
わざと聞こえるようにしているかのようなひそひそ話が止まずにどう収拾をつけて抜け出そうかと悩んでいると、意外なところからサポートがきた。
忍ちゃんが広げていたノートにカンペを書いてくれたのだ。
「す、すみません、ロザリー先生。あの!すみません……今日その……重くて。授業のご迷惑にならないように、保健室で休んでいてもよろしいでしょうか?」
「恥ずかしがることではございませんよ。女なら誰しもが通る道ですもの……!」
なんだか良く分からないけどしみじみと感動しているロザリー先生だったが、なんとか理由はつけられたらしい。
だが同じクラスの生徒たちには、何か大切なものを失ってまでやった僕の仮病がバレバレだった。
「光魔法をお使いになるソラ様なら、おりものは魔法でどうにでもなるはず……」
「まさか、仮病なんですの……?」
「「つまり保健室で……さっきの続きをする気だわ……!!」」
廊下に出てガラガラガラと扉が閉まった時には、もう時既に遅し。
「……なんかとんでもない変態にされたんだけどっ!?」
これで僕は授業中に変な声出して保健室で発散したという変態エピソードがしばらく語られることが確定してしまった。
こんなの、デジタルタトゥーより怖いよ……!




