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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話165 猫の手

【ミア視点】

 エフィー編集長に気に入られ、成り行きで聖女院で働くことになってラッキー。

 ……なんて考えてた時期が、私にもありました。


「ま、また売り切れですか!?もうやだ……」


 きっかけはほんの些細な出来事からだった。


 聖女様の噂は大方メイドから広まる。

 人の噂は蜜の味。

 家政婦の噂は疫病より伝播するのだ。


 今日もメイドさん達の風の噂でソラ様がコスプレ発表会を行うと聞きつけ、エフィー編集長と向かうとそこはパラダイスだった。


 すぐに録画と撮影を回しそこから一日で編集して写真集を作り上げたが、地獄の始まりはここからだった。

 大聖女ソラ様の異名から『慈愛』と名付けられたこのコスプレ写真集は、何故か一瞬で売り切れるのだ。


「は、発行しても発行しても、売り切れるんだけど……」

「泣き言を言っている暇があったら、一刷でも多く刷りなさいっ!」


 独立採算制度を取っている聖女院では、ここ編集室も例に漏れず年間の売上目標があるのだけれど、正直この印税だけで今年はおろか、既に10年分のノルマすら稼いでしまっていた。

 どうしてこんなにも売れているのかと言われると、理由は主に二つある。

 彼女……いや彼の人気もその一つだろう。

 歴代で一番強いと言われているその実力がありながらも、このような可愛らしいコスプレをするというギャップは、なかなか余所では味わえない。


 そしてもうひとつは、この写真集こそが私達民の間で『聖典』として祭り上げられていることに由来する。

 これまで『聖なる書』といえば、第45代聖女辻紬様が書かれた『漫画』程度のものだった。

 しかしこの『慈愛』が発売されるなり事態は変わってきた。


 この写真集は「ソラ様のことがお好きな女神エリス様ならば絶対に読まれる」ということは、少し考えれば分かることだろう。

 「女神様ですらお読みになる書物だとすれば、それはもはや聖典そのもの」。

 「これを持っていることで女神様が私達を見守ってくださるかもしれない」。

 誰が言い出したのか分からないが、これらのような主張が流行り出すと、民も貴族もこぞって一刷は持っているべきだという思うようになり、今に至るわけだ。


 こんなに世界を狂わせている当の本人は女性ではないのだから、世界は不思議な事だらけだ。


お上(ルーク様)も一時的なものと認識されてはいるでしょうけど、来年の売上目標で無茶振りされないか今から心配だわ……」

「入りたての新人にそんな怖い話しないでくださいよー」


 印刷に使用する魔道具に注ぐ魔力はそのままに、私は耳も尻尾も垂れてしまう。

 忙しいうちが華とは言うけれど、最初からクライマックスなのは勘弁して欲しい、本当に……。


「いいじゃない。ほんと、猫の手も借りたいのよ」

「私は犬ですってば!」


 ああ、猫獣人のソーニャちゃんが恋しいよう……。

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