第615話 飛火
「あの、それよりどうして私はまたリリアンナさんに抱き締められているのでしょうか?」
「私めにも、ぜひ『慈愛』をいただきたく……」
「『慈愛』って言えば何でも許されると思っていませんか……?」
そもそもロリコン聖女だって認めてないから。
ひしっと強い抱擁は相変わらずイソギンチャクのごとく絡み付いて離れない。
「お母様、そろそろ真面目なお話をしますよ」
「……むぅ」
リリアンナさんはむくれながら離してくれた。
……どうして聖国王家はこう、変な人が多いんだろう?
サクラさんが聖女結界を張り、周りから声を聞こえなくする。
「一応お茶会と称した行幸でもありますが、何かご要望は?」
「ソラ様とサクラ様には既にお伝えしておりますが、王家が分断されてからというもの、何かと公爵家から難癖が飛んでくるようになりまして……」
「エリス様に見限られたのは、呪われたハーフエルフのせいだとか言ってくるのよ、失礼しちゃうわ」
まだそんなこと言ってるのか、あの人達は……。
「つまり、それを何とかして欲しいってこと?」
「思いっきり政治利用じゃないですか、それ……」
「いえ、そちらは問題ないのです。今は辛抱の時ですから」
「辛抱の時、ですか?」
「ええ。今難癖をつけて泣きわめいているのは、公爵家としての責務である納税を果たせないからに他なりません」
義務ではなく責務なのだからこの辺りは前世と違うところだ。
貴族は大変だなぁ……。
「シュライヒ公やライマン公のように、普通の公爵家であれば当たり前のように払える納税額ですわ。ですが、あの男達がまともに集金をするはずがありませんもの」
「つまり、着服していると?」
「ええ。こうなることが分かりきっていたので、わざと公爵家の配属をお仲間さん達と一緒にして差し上げたのですよ。表向きは『仲良く悪知恵を働かせて税を納めてください』と伝え……」
「仲良く共倒れしてもらうために……」
「そう上手くいくかしら?」
「もうすぐ四半期、連中は十中八九仕掛けてくるだろうな」
「ええ、ですからそこを叩くだけです。幸い、ソラ様に鍛えていただいてから、目も良くなったんですよ」
その笑みにぞくりと鳥肌が立つ。
ソフィア女王、結婚して落ち着いてからというもの、笑い方が少し怖くなったような……。
大人の余裕というやつなのだろうか?
目が良くなったというのは文字通り視力が上がったのではなく、ハイエルフの『魔力視』がよく見えるようになったということだ。
この世界の悪事は結構魔法頼りになることが多いらしいので、その残滓を見れるソフィア女王は案外探偵向きなのかもしれない。
「しかしここの皆様は凄まじいですね……涼花さんもいつの間にかおかしなことになっておりますし、リン様も相当……」
「ええ!?まさかリンちゃんも人外側なの……!?」
そっち側ってなんだそっち側って。
「わ、私はそんな、そんな……!」
一番ひ弱な見た目の僕が言えたことじゃないけど、見た目と一致しない強さしてると確かに違和感あるかも……。
「それで、結局私達に何を求めてるの?」
「政治利用するわけにはいきませんから、これは私達で解決しますよ。ですがたとえばそう、学園の生徒にまで及ぶようであれば、聖徒会長も黙ってはいられないでしょう?」
「ああ、ララちゃんともう一人、一年生に元王家がいるんでしたっけ……」
もうトラブルの方がこっちにやってきてるじゃないか。
いやというか、家族喧嘩を学園にまで飛び火させないでよ。
それは間接的に政治利用していると言っても過言ではないのでは……?
「はぁ……結局飛び火するの、私だけじゃないですかぁ……」
「がんばりたまえ、聖徒会長」
「頼りにしています、聖徒会長♪」
「む、むぅーーっ!」
僕はぷくっと頬を膨らませるも、真桜ちゃんにぷにぷにされるだけだった。
もう、自分の任期は終えたからって……押し付けてくるの、ずるいよ!




