第62話 演劇
あれから涼花様のことが共有されたからなのかはわからないが、僕に対するいじめはなくなり、平穏が訪れていた。
「今日から授業が1コマ短くなる代わりに、皆さんで聖女祭の準備をしますよっ!」
高らかに宣言するマリエッタ先生に、わあっと皆が歓声をあげた。
聖女祭とは、ここ聖女学園の学園祭のことだ。
いつもは警備の厳重な女の花園だけど、聖女祭の開催される二日間の間、聖女学園は寮の区画を除いて、外部に解放される。
するとそこは男子校でも女子高でも変わらないらしく、出会いのチャンスとばかりに皆の心が一致団結するとともに、水面下では出会いの争奪戦が繰り広げられる……。
貴族の人達は社交界や決まった許嫁がいるためそれ程飢えていないみたいなのだが、平民の人達は力の入りようが違う。
今更だけど、人生で両方を体験することになるとは思わなかったな……。
「今年は聖女様がお二方いらっしゃるから、サクラ様とソラ様、どちらもいらっしゃるのかしら……!」
「えっ!?」
何気ないクラスメイトの一言に、僕だけが驚いていた。
「えって……シエラ嬢、まさか知らなかったのですか?」
「私、そんなこと一言も……」
聞いてない。
聞いてないよルークさん……。
「まあ実際に開かれるのは来週末ですから。ソラ様もまだご存じではなかったのでは?」
今知ったからね……。
当日、どうしよう……。
放課後、リリエラさんとエルーちゃんと3人で聖徒会室に入ると、役員が座って皆談笑していた。
「お、シエラちゃんも来たね!1-Sは何出すの?」
「うちはメイド喫茶になりましたよ……」
「なるほど。その可愛らしさで虜にするのね!」
まさかソーニャさんが提案するとは思わなかった……。
僕達も席に座る。
「さて、この時期は聖女祭の準備で忙しくなります。具体的には、校内の飾り付け作業を日を分けて学年ごとに行いますが、その指揮を取ってもらいます」
「皆優秀で聞き分けがいい子が多いから、基本的にはただ開始と終了をお知らせするだけでいい。手順についてはこの紙にまとめたから、時間があるときに読んでおいてほしい」
涼花様がそう言っている間に、ライラ様からプリントが配られる。
「そして一年生は知らないかもしれないが、部活単位でも出し物ができる。おそらく明日から場所の取り合いになるだろう。場所の申請方法についてはあとでプリントを出すことになっているが、もし聞かれた場合は聖徒会室まで案内するか、担任の先生に言うかするように伝えてもらいたい」
「わかりました」
「実は、聖徒会は聖徒会で催し物を毎回やることになっているの」
「そうなのですね。今年は何をするのか決まっておりますの?」
リリエラさんがそう聞く。
それまでのほほんと聞いていた僕。
「よく聞いてくれました。今年は、聖徒会の皆さんで演劇をしようと思っています」
しかしソフィア会長から返ってきた言葉に、僕は机をガタッと震わせた。
「っ……」
「……シエラ君?……どうかしたのかい?」
手がガタガタと震えて止まらない。
「っはぁっ、はぁっ……」
僕はその身体の震えを取り残したまま、完全に言うことを聞かなくなってしまった自らの身体を、座っていた椅子を道連れにしてバタンと大きな音を立てて倒れてしまった。
「「シエラさん!?」」