第610話 既視
「本日はソラ様から特別に講義をしていただけることになった。良く聞くように!」
「マーリア先生、授業を放棄しないでくださいよ……」
「私がやっても意味がないだろう」
プライドはないの……?
当の本人は見守ってるだけでお金入ってくるとか思ってそうだけど、減給されても文句言えないと思うんだ……。
「貴族の方には申し訳ありませんが、事前に説明したとおり、今後魔王以上の脅威が世界中を襲うことになります。私達と親衛隊で守るつもりではいましたが、私達でも大量の魔物に全て対応できるわけではありません。ですから皆さんがその脅威を前に少しでも生きていられるように、学園の皆様には私なりの強くなる術をお話ししていきます」
魔族の強襲は明日かもしれないし、僕のいない何百年後かもしれない。
その間に少しでも皆が強くなって、自分達で自分達を守れるようにしてもらう必要があった。
僕は学園を中心に広め、聖女院からは伝道師が各国の他の学園へ教え、親衛隊には各国の冒険者ギルドへ赴いて週に一度の講義とレベリングを行ってもらっている。
学園生には不平等があってはいけないけど、ギルドへ教える人は絞っており、とくにレベリングに関しては各ギルドに事前に優良で温厚な冒険者のみに絞ってもらっている。
「皆さんは私と同じクラスでしたので耳にたこができるくらい聞いているかと思いますが、強くなりたいのならまずはレベルを上げることが最善です。野外演習が苦手な方々には申し訳ありませんが、今後しばらくはレベリングを優先して行うことをご承知おきください」
「むう……」
「ソーニャさん、ごめんなさい」
「仕方ない。けど、複雑……」
できるだけ僕の手を借りたくないと言ってたもんね……。
「でもソーニャさんももうAランクですし、レベルをカンストさせるのなら丁度良いと思いますよ」
「説得しなくても、ソラ様の言うことは聞く」
誰も失わないためには準備できる時にするべきだ。
あまり学生のうちから介入したくはなかったけど、世界の方は僕を待ってはくれないだろう。
「今日はこの迷宮を攻略します」
「攻略しますって……ソラ様、お戯れが過ぎますわ」
「天使のようなお顔で悪魔のようなことをお話しになるなんて……」
えっ、そんなに難しい注文したかな?
「ソラ様、普通の冒険者はAランク迷宮に挑む際には複数のAランク冒険者チームが手を取り合ってやっと最奥部を攻略するのですよ?」
よりによって冒険者を目の敵にしているエルーちゃんに冒険者の常識を説かれてしまう。
「ちょっ、ここA級迷宮なのですか!?」
「お、終わった……終わりましたわ!」
「ああエリス様、わたしの日頃の行いのせいなのでしょうか……!」
「せめて、婚約者に思いを伝えてから逝きたかったです……」
いや、僕が全力で強化魔法してるから、死ぬなんてこと絶対にないよ。
「そ、そんなっ……!これでも一時限で終わるように、三周だけに留めるつもりだったのに……」
「「「何周もするつもりなのですかっ!?」」」
なんか前に聞いたようなやり取りな気がするんだけど、どこで聞いたんだろう……?




