第608話 誓言
「涼花さんっ!?」
ガラガラと医務室の扉を開く。
「静かになさい。ここは病室ですよ」
「ご、ごめんなさい、皆さん。それと白虎……居たんだ」
まさか人の常識に疎いはずの神獣に常識を解かれるとは思わなかった。
「すみません、白虎様に皆様……。あの、涼花様は?」
「魔力不足です。じきに目が覚めるでしょう」
「そ、そっか。よ、良かったぁ……」
「ソラ、ひとつ忠告があります」
「忠告……?」
「涼花は自らの寿命を削ってまで今回の修行を早めようとしました」
「え……?」
どうしてそんなことを……?
「まだ分からないのですか?涼花のように無茶をする人間が多いのは、あなたのせいですよ」
僕の、せい……?
「私のせい……」
「ソラ様、我々民はソラ様の代わりに死ねるのなら本望だと思っております」
「エルーちゃん、そんなこと言わないで……」
僕の方こそ、皆が死ぬくらいなら……。
「いいえ、これでソラ様がお変わりになられるのでしたら……失礼を承知で申しあげます。魔族との均衡を破られるほどの偉業を為し遂げられたソラ様でさえ、毎回身をすり減らされて帰ってこられる。親衛隊の皆様はやがて、そうでもしないと魔族達には勝てないのだと、そう思うようになったのではございませんか……?」
「でも、それじゃあ私に見捨てろって言うのっ!?」
最初の方の僕は考えなしだったかもしれないけど、今はそうしないと救えなかった命があることだってあったと思う。
「そうではございません!強敵がいるのなら、私も共に戦います。大魔法をお使いになるのに魔力が足りなければ、私達のもお使いください。常に何があるか分からないのでしたら、いつでも私をお側に置いてください!もっともっと……周りを頼ってくださいませ……!」
「エルーちゃん……」
音もなく伝う涙を拭うこともせず、エルーちゃんは真っ直ぐとこちらを見つめていた。
その顔は、決意したように凛々しかった。
「そうだ。もっと周りを頼って、お姫様……」
「涼花さんっ!」
「涼花様!」
涼花さんは僕の左手を取ると、ちゅっとその甲に口づけをした。
「もっとあなたと歩ませて欲しい。私の願いは、それだけさ」
不器用なのは、僕だけじゃなかった。
「ぐすっ、ごめんなさい……ごめんなさいりょうかさんっ……!わたしもう、やくそくまもるから……!ぐすっ。だからおねがい、もうこんなむちゃしないでっ……!」
「……そうだな。私達は共に秘密を分かち合った三人だ。皆で一緒に考えよう」
「そうですっ!もう皆さんお一人で抱え込むのはやめましょう」




