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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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閑話163 嫉妬心

【レティシャ視点】

「ぷぅ……」


 昨夜は旦那と喧嘩をしてしまいました。


「レティシャ夫人、ごきげんよう。お美しい顔をその豊満なお胸のように膨らませて、どうかなされたのですか?」

「あら、シスカ様。ごきげんよう」


 ここ聖女院ではシスカ様のように共働きの御方は珍しく、親衛隊のセブル様と共に聖女様にお仕えしておられます。

 どのお仕事も一流の方々が揃うこの聖女院で、共働きをしているなど大変凄い方々です。


「まあ!そちらがメーデル様で御座いますね!」


 透き通るような水色の、くりくりとしたお目々がこちらを不思議そうに覗いてきます。

 目元はシスカ様に少し似ていらっしゃるでしょうか?


「メーデル、レティシャ夫人よ。ご挨拶なさい」

「あー」


 こうして幸せそうなお姿を見ていると、私も子供が欲しくなってきますね。


「私も赤ちゃんが欲しくなってきましたわ……!それなのに、旦那ときたら……」

「……?」

「先日門番のお仕事をしていたら珍しく大聖女様にお会いしてお話までしたと言っていて、もうそればっかり……」

「なるほど……。レティシャ様も旦那様を哭かせてみては?格好良い旦那様が自分の前では従順な下僕になるというのも、乙なものでございますよ」

「魅力的な提案ですけれど……私は旦那を縛りたいわけではございませんから」


 資金的には依存している身ですし、私は彼を癒す立場でありたい。

 ですが、怒る時は怒らねばなりません。


「左様でございますか。しかしこんな美人をそっちのけで聖女様に現を抜かすなんて……」

「聖女様の魅力を考えたら仕方ないこととはいえ、伽の時に他の女性の話をするなんて。もう少しデリカシーがあると良かったのですが……」

「そうですね……いえ、それはとても()()ですね……」

「…………まぁ!」


 シスカ様は私と()を分かち合う()()

 一瞬、子をお産みになられてその趣向が変わられたのかと思いましたが、そのよだれでも垂れて来そうなお顔を拝見し、何となく察してしまいました。


 これは流石に、私は聞かなかったことにしておきましょう。

 到底忘れるなど無理でしょうが、外様の私は知らない方がよろしいのでしょう。

 ……まさか、あの御方が殿方だなんて、この世の不思議の全てを集めても足りないくらいの驚きですもの。


 ですが私の旦那を出汁にするのは、流石に見境がないと思いますよ、シスカ様。


 嫉妬相手が殿方であったことで少し心は晴れやかになりましたが、旦那の問題は解決しておりません。

 大聖女様にその気がなくとも、旦那の心が浮わついている方は解決しておりませんもの。

 今日の雨のように憂鬱でした。




 翌日、雨があがって外へ出ると、何やら庭園が騒がしい様子です。


「ごきげんよう、どうされたのですか?」

「レティシャ夫人。実は植物にススができてしまって……。最近アブラムシが多くいたせいでしょうか……」

「まあ、それは大変!なんとかならないのでしょうか?」

「これ以上広まらないように木酢液をうすめて吹き掛けておくくらいしかありませんね……」

「皆様、どうかされたのですか?」

「リン様に、東子様!ごきげんよう。実は……」


 リン様達に事情をお話しすると、リン様は少し考え込んでおられました。


「……あの魔法なら……」


 そうぼそりと呟かれると、いつの間にかその手に大きな杖を持っておられました。


『――大地を照らす神秘なる聖獣よ、今ひと度吾われに力を貸し与えたまえ――』


 まるで奇跡を目の当たりにしているかのようでした。


『――顕現せよ、聖獣ドリアード――』


 にょきにょきと地面から現れたのは、大木のようなもの。

 それがやがて神秘的な美しき女性の形をしたものに変わると、私達が伝承で知る土の聖獣、ドリアード様のお姿になったのでした。

 召喚なされた当の御本人はこれほどの偉業を「できた!」などと軽く嬉しそうになさるのみでした。


「ドリアード、お願い、力を貸して!」


 聖獣様が祈りのポーズをとられると、あたり一面の植物達が光りだし、みるみるうちにすすがなくなっていくのです。


『――豊穣の精霊よ、この地に暫しの加護を与えたまえ――』

「まあっ!これが、聖女様の『豊穣の祈り』……」


 おまけとばかりにリン様もお祈りをなさると、今度はエメラルドの光が蛍のようにひらひらと辺りを飛び回っておりました。

 それは光輝く精霊様たちが、魔力の続く限り植物を守る契約のようなものとお聞きしたことがございます。


「これが、聖女様の奇跡……!」

「リン様、ありがとうございます!」

「いえ、無事治ったみたいで良かったです」


 ふふ、旦那には後で謝らなければなりません。

 私も同性ながら、リン様に惚れ込んでしまいましたもの。

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