閑話162 倫理観
【柊凛視点】
「はぁ……どうしてお断りなされたのですか？そのせいでソラ様が悩んでしまわれるのは本望ではありませんよね？」
「そ、そうだけど……」
「ソラ様はお優しいですから顔にも出されないでしょうが、正直印象は最悪だと思いますよ」
「うぅ……」
わかってる。
私が素直に引き受けていれば、天先輩の悩みの種もなくなったということに。
「ごめんね東子ちゃん……。その、東子ちゃんだって、天先輩やエルーシアさんと一緒にお仕事したかったよね……？」
「私相手でしたらそのご配慮がおできになるのに、どうしてソラ様とはうまくいかないのでしょうね？」
「うっ……」
本当にその通り。
天先輩が相手だと、なんだか全然うまくいかない。
「リン様。その……本当に、大丈夫ですか？」
「えっ？どうしたの、東子ちゃん……？」
「リン様ご本人が仰ったことですから従っておりますが、私の失礼な物言いがリン様を傷つけてはおりませんか……？」
「あ……」
前世でじめじめした私は荒療治でしか治せないと私自身がわかっていた。
それをなんとかするため、東子ちゃんには私がなよなよしたことを言っていたら喝を入れてほしいとお願いしている。
元々初対面で私がなよなよしていたのを見てぼそりと毒を吐く東子ちゃんを見て、私は東子ちゃんにしかお願いできないことだと無理を言ってお願いした。
でもそれが東子ちゃん自身を不安にさせてしまった。
本当に私はダメダメだ。
「ううん。東子ちゃんは悪くないよ。私にちゃんとダメなことはダメって言ってくれる東子ちゃんが……その、好きだから」
「左様でございますか。私もそうして悩まれている東子様は私達民と同じようで好意的に思っておりますわ」
東子ちゃんが悩んでいたことにも気づかなかったなんて、私は自分のことばかりで最低な人間だ。
でもこうして東子ちゃんとの友情を再確認できたのは、よかったのかもしれない。
「それよりも」
「……？」
「私には……『好き』と言えるのですね」
「うっ……」
藪をつついてしまった……。
「わ、わかってる……。早く言わないと、エルーシアさんやエリちゃんに取られちゃうって……」
「ふふ、リン様、いいことを教えて差し上げましょうか？」
「？」
「この世界では一夫多妻も多夫一妻も、聖女様であれば認められております」
「ーーっ！？」
これまでの倫理観が、一気に崩れ去った。
そういえばこの世界では「聖女が法」だとか言ってたけど……本当だったなんて。
「かの有名な篠塚燈様は世の中のイケメンを守るために不憫なイケメンをつかまわてはまぐわっておられたそうです」
「まぐわってって……」
「私の故郷である東の国に篠塚姓が一番多いのはそういう理由なのだそうですよ。それにソラ様の従姉であらせられ、初代聖女様のお孫様でもあらせられる嶺梓様も自他ともに認めるケモショタコンとして、たくさんの獣人族の側室を迎えられたそうです」
なんだか歴史を知るたびに、皆さんこの世界に来てはっちゃけているなと感じる。
とはいえ前世であんなにいじめられていても曲がったことは一度もしなかった天先輩が、そんなことを考えるとはあまり思えないが……。
「世界をお救いになり魅力的なソラ様ですから好意を抱いているお方は数知れず。もしソラ様がそれを望まれたとしたら――」
「早い者勝ち……」
「左様でございます」
悩みの種は、増えていくばかり。
