第603話 憤怒
「それで、回答をお聞きしても?」
「は、はいっ!すみません……」
回答というのは、聖徒会の件だ。
「ご、ごめんなさい!お誘いいただいたのはとても嬉しかったのですが……」
まあ、大方予想していた通りになった。
「謝らないでください。むしろ不安にさせてしまったことを謝らせてください。そもそもこんなの、先生方が強要しているみたいなものなので、柊さんは怒って良いんですよ!」
怒る、なんてこちらに来てから学んだことだけど、その感情を呼び起こしてくれたのはこの世界の人達だ。
柊さんも聖女だから、向こうで散々な目に逢って引っ込み思案になっているのかもしれない。
だから柊さんに怒りかたというものを思い出させてあげるのが、僕の役目なのだろう。
サクラさんが僕に、思い出させてくれたようにね。
「お、怒って……?」
「そうです!ほら……ぷん、ぷん!」
「ぷ、ぷん、ぶっ……!?」
柊さん、吹き出すほど面白かったの……?
「か、可愛っ……!?」
「…………」
「……エルーちゃん、どうして遠い目をしているのかな?」
そんな可哀相なものを見る目で、僕を見ないでっ……!
「ソラ様が真にお怒りになられた時は、こんなお可愛らしいものではありませんでしたから……。怒るというよりは、憤怒と言った方が正しいといいますか……」
淡々と話すエルーちゃん、ちょっと怖いよ。
「う……それはだいたい魔力暴走してるときだから……。確かにエルーちゃん達には迷惑をかけているのは申し訳ないと思っているけれど……」
「私達にはいくら迷惑をかけても構いません!ソラ様には、もっとソラ様を大事になさってくださいと……申しているのです」
「エルーちゃん……」
僕の手を取って力説するエルーちゃんに、押され気味の僕。
「……痴話喧嘩?」
「「ち・が・い・ま・す・っ!」」
「ダックスフンドの方が近いような……」
「……」
憤怒違いだし、ダックスフンドの方が僕なんかよりずっと可愛いでしょ。
もう、聖徒会長としての威厳もあったもんじゃないな……。
いや、そもそも聖女としての威厳も、もうあったもんじゃないのか。
「残念ですけど、仕方ありませんね。先生方には私から伝えておきますね。一応聞いておきますが、東子ちゃんは……」
「とても魅力的なご提案ですが。すみません、リン様にお仕えするのが私のお役目ですので」
なんか強調したよこの子……。
意外と柊さんと東子ちゃん、仲悪かったりする……?
「そうですよね。変な質問してすみません」
「いいえ!ソラ様は何も悪くありませんから!では、私達はこれで……」
「し、失礼しました!」
ドアが閉まった後もドア越しに話し声がしていたが、何を話しているかは良く分からなかった。
「はぁあ~……無駄に疲れた……」
会長職なんて、気軽に受けるものじゃなかったよ。
いや、僕の場合受ける受けないじゃなくてほぼ強制だったけどさ……。




