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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第601話 盟約

「貴方達、聞いていればソラ様のご都合も考えず勝手ばかり……。それが淑女としての、誇り高き聖女学園の聖徒としての在り方ですか!」


 入学前の見学の時に似たようなことがあり、ある程度覚悟していた僕とは違い、リリエラさんはこの光景を初めて見た。


「で、ですが私達だけでは……」

「そ、そうですわ!皆様……」

「でもも糸瓜(へちま)もありませんっ!ソラ様は、これまで二年間のそののご功績を、学園に通いながら、講師も聖徒会のお仕事もこなしながらなさっておられたのです。それが何を意味するのか、少しは考えてはいかがですか!」

「リリエラさん……」

「確かに貴方達と今お話しされているこの時にも、ソラ様が皆様をお救いすることが出来ていたかもしれませんわね」

「ノエルさん……」

「それとも、貴女達が足止めした時間で、代わりに貴女達が大勢の民を助けてくださるのかしら?」

「わ、私……気分が優れなくて……」

「わ、私も……」

「あらそう、お大事に」


 あんなに集まっていた人達がみるみると離れていく。


「おー……」


 その手腕に、思わずぱちぱちと手を叩いてしまった。


「……はっ!ソラ様のご都合も考えず、申し訳ありません……」

「いえ、助かりました。ありがとうございます……」

「……いかがなさいましたか?」


 うっ、敬語……。

 親友ではいられないとは自分で言ったけど、いざ遠慮されるのを見るとちょっと来るものがある。

 ここは僕の方から歩み寄らないと……。


「……やっぱりリリエラさんの方が、会長に向いているのでは?」

「私ではカリスマが足りませんわ」


 そんなことないと思うけどなぁ……。

 中等学校からの信頼が厚く、僕なんていうイレギュラーがいなければ会長になるのはリリエラさんだっただろうに。

 その上学園の平穏のためなら自らが悪役になることも厭わないのだから、素直に尊敬する人だ。


「そうだ!聖徒会長権限で、リリエラさんも聖徒会長に……」

「お・や・め・く・だ・さ・い!それでは会長権限を他人に譲渡できるようになってしまうではございませんか……」


 あ、そっか……新しい人にも会長権限が与えられるのか。


 二人の女王のノリで会長が二人いてもいいんじゃないかと考えていたけど、そういえば会長権限ってそんな抜け道があったんだ……。


「でも私、使いたいことなんてありませんし。それならリリエラさんに譲渡する方が有意義に使ってくださるかと」

「どうしてそんなに私を会長にしたがるのですか……。今すぐにでも使わなくとも、いずれ使いたくなる時が来るでしょう」

「じゃあその時が来なかったら、是非リリエラさんが使ってくださいね!」


 リリエラさんは僕を見て何故か顔が赤くなっていた。


「……なんだか口車に乗せられた気がするのですが」

「まあまあ、あくまで可能性のお話しですから。でもそうですね……私は会長として人事の権限は任されておりますので、副会長の席は受けてくださるでしょう?」

「まあ、私はソラ様の秘書としてお仕えする練習にもなりますから構いませんが……。そうお気軽に権力を他人に渡さないでくださいませ」

「流石に私でも、人は選んでますよ」

「……」

「それにいくら()()でなくなったとはいえ、リリエラさんへの信頼までなくなったわけではありませんから」


 悪いのは僕だけで、リリエラさんは何も悪くない。


「やはり、私が()()()のですね?」

「……」


 すごいや、もう全部お見通しなんだもん。


「……不敬ながら(わたくし)()()()()()()でしてよ!」

「リリエラさん……」

「知りませんでしたの?私は強欲ですの。副会長もソラ様の親友も、譲る気はございませんわ!」

「リリエラさんは、いつも私が心の奥底で欲しい言葉をくれるんですから……」


 僕がリリエラさんと握手を交わすと、周りからわぁと声が上がった。


「素敵ですわ……!」

「これが、『親友の誓い』……!」

「私達は今、歴史を目の当たりにしているのですね……!」

「…………」


 学園には「リリエラ副会長誕生秘話」という、なんだか色々と尾ひれがついた物語が語られるようになった。

 そんなにみんなして語ったら、秘話でもなんでもないじゃん……。

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