第598話 饒舌
「ご、ごめんねロッテちゃん!私はシエラ。よろしくね」
「シエラ様のメイドのエルーシアです」
「はわぁ……っ!これが噂の『水の賢者』様と、『乙女の秘密』様……!素敵です……!!」
「「ど、どうしてその名を……!?」」
「聖国で知らない冒険者はいない。有名だけど誰も詳しく知らない二つ名」
ラ、ララちゃんまで知ってるし……。
くぅ、ステラちゃん、一生恨むよ……。
今度会ったら、頬をモチモチの餅になるくらいペタペタしてやるぅ……。
「私は冒険者ではありませんが!知ってます!お二人は大聖女様のお弟子様なのですよね!?」
「あ、ええと……確かにそうですけど……」
「ああ、大聖女ソラ様は本当に実在するのですね……!二年前に颯爽と現れて魔王を倒され、その上四天王を次々と倒し平和を築き上げたお方……。その上とても愛らしい見た目は地上に降り立つ天子様のよう……!」
さっきまでどもっていた人が、急に饒舌に……。
なんだかちょっと、ライラ様みを感じる子だ。
「あっ、す、すみませんっ!!わ、私、歴史が好きで、特に聖女史がすごく好きなんです。可憐で素敵な聖女様方が様々な知識を私達に教えてくださる。そんな聖女の歴史に興味をもって、お父さんが私に聖女学園を薦めてくださったのです!今こうして雑誌や本で書かれていることを目の当たりに出来ることを、本当に嬉しく思います……!」
「あ、ありがとね……!」
「ところでシエラちゃん、三分の二が知ってるのに、まだ隠すの?」
「まぁどうせすぐ知ることになるんですし、今日の主役は一年生とミア様ですからね」
「私が言うのもなんだけど、御愁傷様ね……」
ミア様はロッテちゃんに向かって南無と手を合わせていた。
「何のお話ですか?」
「いい、二人とも?『乙女の秘密』って言われるのはあまり好きじゃないの。ですからあまりその名前を使わないで欲しいな……」
「お、おねだり……!」
はぐらかしちゃったけど、黒歴史を暴露されたんだし、これはちょっとした仕返しみたいなものだ。
「シエラ様の貴重なおねだりシーン……これは飛ぶように売れますよ」
いくらフリー素材といえども、僕で生計を立てようとしないで欲しい……。
「忍ちゃん、後で焼き増ししておいてくださいね!」
「わ、私にもくださいっ!」
「忍、私にも……」
「シェリー、セフィー、神流ちゃんまで……」
どうして僕のことになると彼女達の倫理観が崩れるのだろうか?
そんなに僕の弱みでも握りたいの……?
「さ、今日は新入生歓迎会とミアちゃんの送別会よ!腕によりをかけて作ったから、食べて頂戴ね」
ミア様とはまた聖女院で会えるけど、学生としてのミア様とはお別れだ。
寮母のフローリアさんの掛け声から始まった会に僕たちは、最後の夜が更けるまで共に過ごした。




