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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第597話 遊惰

 手紙の続きには、ゼクス家は「優柔不断が理由で我々に歯向かった」として落とされた他家から逆恨みされているから、何かと気にかけてほしいとも書いてあった。

 平和を望んだ結果に対してケチをつけるなんて、もうただの言いがかりでは?


 僕が言えた義理じゃないかもしれないけど、家族ゲンカを外にまで持ち込まないで欲しい。

 まあでも、どこの国でも王家の継承争いは家族ゲンカそのものか……。


「ところでララちゃんは王家なのに、どうして寮に?」


 ハインリヒ王家は基本王城か、その裏手にある精霊の森に住んでいる。

 王城からここまでなんてそう遠くないし、馬車で10分もかからない。

 直線的な距離だと聖女院から学園へ行くのとあまり変わらないくらい近いはず。

 わざわざ不便な寮で生活する必要性は皆無だろう。


「周期的に、私は王は継げない」


 確かに今は10(ツェン)家だから、ここから(ゼクス)家に戻るには100年後とか、それ以上になるのかな?

 もっともその頃でもハイエルフにとっては現役なのだろうけど、その頃には子もいるだろう。


「だからこの国から出ないことと、子供さえ産めば何しても許される」


 この聖国王家というのは、実はとても(いびつ)な存在だ。

 元々は64代聖女のロサリンさんが託したことで王家になったのだから、ハイエルフの王家というものに前例がなくて当然なのだけど、500年くらいたった今でもそのハイエルフが王家をずっと続けてきたことで、問題が起きてしまった。


 王家は血を残すために沢山の子孫を残すように幼少期から教育を受けてくる。

 けれど、エルフ種以上の長寿を誇るハイエルフは婚期も出産適齢期も長いため、それが沢山の子孫を残しているとなると、そりゃあまぁハイエルフの人口が加速度的に増えてしまうわけだ。


 大分公爵家を乱立した後、もうこれ以上増やすわけにも行かず、ついには全員王家とするしか手段が残されていなかった。

 ソフィア女王が行った改革はある意味では正しくて、増えていく一方で自分達はなにもせずに好きなようにただ子を増やし、散財しているだけの大人見て、このままでは駄目だと、国のためにはならないと、そう悟ったそうだ。

 こういった王家の意識を変えるのには、なかなか時間がかりそうだ。


 まあこの子の場合、自分が冒険者になって稼ぐって言ってるし、ヒモ王家の一員にはならなさそうだ。

 ソフィア女王のことを「お姉様」と言っていたし、もしかするとこのあたりにも、ソフィアさんの息がかかってるのかもしれない。


「私は冒険者に興味ある。ソーニャ様はAランクと聞いてる」

「……バレた」


 バレたって……。


「ソーニャさん、Aランク試験受かってたんですね。おめでとうございます」

「尊敬」

「ぶい、ぶい」


 その無表情ダブルピース、流行ってるの……?


「その顔を『アへ』に変えることで、一気に殿方の憧れるキメ顔に早変わり!」


 変な顔キメなくていいから。

 どっから拾ってくるの、その知識は……?


「崇高なる我が祖先、(あずさ)様のお知恵ですよ」


 思っていた以上に、身内の恥だった。

 もっとまともな歴史残してよ、梓お姉ちゃん……。

 さてはお婆ちゃんいないからって、あの人も好き勝手やったな?


 ……話を戻すと、僕たち聖女にとっては冒険者は「異世界の醍醐味」みたいな存在だけど、貴族からすると「野蛮な人達」という印象が強いらしい。

 だから貴族で「冒険者を目指している」などと言えば「家に不満があって野蛮な冒険者を目指すようになった」などという尾ひれのついたストーリーが出来上がるのだそうだ。

 実際、ダークエルフのオフィーリアさんと駆け落ちした元王女のルシアさんも、そんなんだったしね……。


 ともあれそういった貴族目線では「野蛮な女性」は王侯貴族として魅力の欠片もない扱いされてしまうのだけれど、このまま冒険者を目指していて婚期を逃さないか心配だ。

 まあハイエルフの婚期は長そうだし、大丈夫か。


「それに……」

「それに?」

「朝は、ギリギリまで寝ていたい。ぐー、ぐー」


 ……もしかしてゼクス家って穏健派なんじゃなくて、ただぐうたらなだけなんじゃ……。


「私の番ですわね!」

「ルージュちゃんはさっき自己紹介してくれたよね?」

「まだ()()()()名乗っておりませんわ!」


 ああ、そういえばさっきは柊さんいたから……。

 今は僕が許可すればいいのか。


「改めて、()()()


 伝統とはいえ聖女相手に姓を名乗らないの、普通に不便だから廃止してもいいと思うんだけど……。


「テーラー子爵家が娘、ルージュと申しますわ。シエラお姉様、エルーシア様、忍様、よろしくお願いしますわ!」

「よろしくね、ルージュちゃん」

「なんだ、知り合いだったのね……」

「私のお父様は、マーク・シュライヒ公爵の弟でしてよ」

「そんなところに繋がりが……」

「試験でいい成績を取れたのはお姉様のお陰ですわ。改めて、ありがとうございますわ!」

「さすがに、たった1日見ただけじゃ変わらないよ。ルージュちゃんが毎日コツコツと頑張ったからだよ」


 なでなですると嬉しそうに赤い縦ロールのついた頭を差し出す、末っ子属性さがかわいらしい。

 確か色狂いの兄がいるらしいのだけれど、彼によく撫でられていたりするのだろうか?


「最後の子かな?」

「え、ええと、えと、えと!西の国(セイクラッド)の商人の娘、ロ、ロ、ロロッテと申します!!」

「ロロロロッテちゃん?」

「ロロロッテちゃん、ですか?」

「皆、名前を間違えるのは失礼だよ。ロロッテちゃんだよね?」

「ロッテですぅ……ごめんなさいぃ……!」


 見事に全員間違った……ごめんなさい。

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